第27話 新たな出会い
アリア殿の案内の元、街の中を歩いていく。
基本的には人族が多いが、中には獣の容姿を持つ獣人や、小さいながらも大きな体躯を持つ鉄人などがいたりする。
我が国は種族間の差別が少ないので、こうした光景が見られるのだ。
これもクラウス陛下や、ユリア様の治世のおかげじゃろう。
……それでも、どうしても全てを救うことは出来ないのが世の中か。
そんなことを考えていると、町外れにある一軒の宿に到着する。
「ここが私が泊まっている宿になります」
「おおっ、中々に良きところじゃな」
建物自体は木造の古い二階建てだが、むしろ趣があって良い。
辺りに大きな建物はなく、かといって閑散としているわけではない。
すぐ近くには人通りもあり、僅かに人の営みが聞こえてくる。
裏路地を抜けるのが、少々見つけにくいくらいか。
「そう言って頂けて嬉しいです。おそらく、ここは条件に合っているかと」
「うむ、あとは飯じゃな」
「ウォン!(飯は大事なのだ!)」
「ふふ、気持ちの良い方々だ。では、中に入りましょう。ひとまず、オルトスはこちらで待って頂くかと」
「それはそうじゃな」
オルトスを待機させ、扉をあけて中に入ると……中も中々に良さげだ。
木の椅子とテーブルがいくつかあり、それらは綺麗に磨かれている。
壁も木の模様で統一感があり、清潔感で落ち着きのある雰囲気を醸し出していた。
そして、すぐに可愛らしい女の子が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ……アリアさん! お帰りなさい!」
「あ、ああ、ただいま」
「無事で良かったぁ! まだ怪我が治ってないのに依頼を受けるって言ったから心配してたんだよ!」
「すまない……だが、必要なことなのだ」
ふむふむ、宿の人とも良好か。
そして、ただの客にこれほど好意を寄せるとは……訳ありか。
やれやれ、儂のお節介を我慢せんと。
「そっかぁ……あっ! 誰かいる!」
「ああ、そうなのだ。アンナ、客人を連れてきたのだが女将さんはいるかな?」
「お客様!? おかあーさん! アリアさんがお客様を連れてきたよー!」
すると、奥の方から細身で雰囲気の柔らかい女性が出てくる。
相手に警戒心を与えない、いわゆる癒し系というやつか。
「あらあら、新規のお客様ね。でも、若い男性の方……」
「メリッサ殿、この方は信頼できる男性だ」
「それって……アリアさんの良い人ってことかしら?」
「なっ!? そ、そういうのではない!」
「あらあら〜残念だわ。折角の美人さんなのに」
「ま、全く……シグルド殿、こちらが宿主のメリッサ殿だ」
ひとまず外観と中の人を見てから決めようと思ったが、中々に良い雰囲気の宿じゃ。
飯はまだじゃが、儂の勘が告げていた……きっと、美味いと。
紹介を受けたので、メリッサ殿と娘であろうアンナ嬢の前に出る。
「ご紹介にあずかりました、シグルドと申します。こちらの宿をお勧めされたので、よろしければ泊めて頂きたい」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。アリアさんの紹介なら、心配はありませんね。是非、泊まっていってください」
「少し待ってくだされ……まずはアレを見てから判断をしてもらいたい」
儂が視線を向けた先には、窓に張り付いた犬……もとい、オルトスがいた。
声は聞こえなくとも、その顔は『まだ〜!?』と言っている。
「わぁー!? おっきいわんちゃん!」
「あ、あれは……?」
「驚かせてすまぬ。彼奴は儂の従魔でオルトスという……流石にアレを泊めるわけにはいかんかのう?」
これだけ大きな街なので、従魔用スペースがある宿はあるだろう。
しかし前に泊めたが、最強の一角を成すフェンリルに他の魔獣達が怯えてしまった。
人は騙せても、魔獣は誤魔化せないということだ。
「え、えっと……」
「メリッサ殿、魔獣の安全は私が保証する。完全に言葉を理解しているし、私に対しても身を呈して守ってくれたのだ」
「そ、そうなの……はい、それなら許可しますね」
「感謝いたす。アリア殿も、助力してくれて助かった」
儂は誠意を持って、二人に頭を下げる。
儂にとってオルトスは従魔ではなく、対等な相棒だ。
人族である儂に合わせてしまっているので、できれば快適に過ごさせてあげたい。
「い、いえ、これくらいは……」
「そうですよ、頭を上げてくださいませ」
「重ね重ね感謝いたす」
「ふふ、とってもステキな方みたいですね。とりあえず、お茶とお料理を出しますから話をしましょうか」
一期一会の出会いじゃが、今回も良い出会いの予感がする。
厨房らしき奥から、良い匂いも漂っているし……別に、腹が減っているからでは断じてない。
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