第52話『終わり良ければ全て良し』

 人の気配がない公園にて、私たちはアルフェナを含めた5人で話し合っていた。

 夜になったということで耳に入ってくるのは自然の音だけで、内緒話をするには最適の場所である。


「まさか我々のすぐ隣に天使と悪魔とドラゴンがいたとは思いませんでした。しかも、ヴェリティウム神話に登場する最上位存在ですからね」

「子供の頃、寝る前によくお母さんに読んでもらったよ。聖なる焔で敵を燃やし尽くす最強の熾天使カレイア。すっごい憧れてた」

「あはは……その正体が私だと知って幻滅した?」

「まさか、カレンでよかったって思ったよ。強くてかっこよくて可愛くて優しくて。幻滅するどころか安心したよ、私の憧れた存在がカレンだったことにね」


 笑顔を浮かべてくるアメル。


「いやいや、怖くないの? 私は熾天使だよ? 人間じゃないんだよ? 殺戮天使とか言われちゃってるんだよ?」

「でも、カレンでしょ?」

「カレンなら怖くありませんね」

「ええ……」


 真顔で言ってくるアメルとサツキ。

 少し掠っただけでも即死の焔を操る怪物が怖くないなんて、私には理解できない。


「てゅあもむかしはこわかったけど、いまはもうこわくないよ」

「テュアまで……3界戦争の時、殺されそうになったのに怖くないの? 血で血を洗うような殺し合いだったじゃん」


 あの時は、お互いに殺すことしか考えてなかった。

 今思えば、このように和気あいあいとしていることがウソみたいである。


「あれはせんそーだからしかたない。みじかいじかんだけどかれんといっしょにすごしてわかった。かれんはかんじょうのないさつりくへいきなんかじゃなくて、かなしいときはおちこんでうれしいときはわらう、やさしいてんしなんだって」

「……ぐすっ」

「テュアちゃんがカレンを泣かせたー!!」

「あめるちがう!! か、かれん!? どーしてなくのー!? てゅあいじわるしてないよー!?」

「ご、ごめん。悲しくて泣いているんじゃなくて嬉しくて泣いているんだ。今まで殺戮天使とかバケモノとか言われてたから……テュア、ありがとう」

「てゅあびっくりした……」

「「あはは!!」」


 焦るテューエを見て、アメルとサツキが楽しそうに笑っている。


「よし、話し合いはこれで終わり終わり。後はクエスト完了を報告するだけだね。レイン・ドゥクスアの素材も回収しないと」

「アメル、それは難しいです」

「どうして?」

「岩礁地帯にはおそらく人が集まっています。面倒事になるのは避けられません」

「そうだった……」


 サツキの発言を聞いて、アメルは顔を両手で覆う。


「それに、おそらくレイン・ドゥクスアの死体は大津波に流されてしまってあそこにはもう残っていないと思います」

「と、いうことは」

「クエスト失敗ですね」

「鱗の1枚でも回収しておけばよかった……誰も回収してないよね?」

「まさか精霊に襲われるなんて思いませんでした……か、ら?」


 メイドの服のポケットに手を入れた瞬間、サツキの動きがぴたりと止まる。


「サツキ?」

「何かポケットに違和感があると思ったら……」


 そう言いながら、ポケットから1枚の黒い鱗を取り出すサツキ。


「「「「あっ」」」」

「……どうやら戦闘中に剥がれたレイン・ドゥクスアの鱗が私のメイド服のポケットに偶然入り込んでいたようです」


 サツキの手に握られた、1枚の黒い鱗。

 それは間違いなく、レイン・ドゥクスアの鱗である。


「サツキちゃあぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「なんでもありか!! このメイド学校首席卒業~!!」

「ほめてつかわすー!!」

「ま、ままままってください。3人同時に飛び掛かられてはさすがの私でも受け止めきれまぶぶぅぅぅぅぅああああああああああああああっ!!!!」


 アメルと私とテューエの3人から同時に飛び掛かられ、サツキは悲鳴を上げるのだった。

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