第48話『五大精霊』

 振り返ると同時、妖刀を抜くアルフェナの姿。

 アルフェナからは魔力も殺気も感じなかったので、私は反応が遅れてしまう。

 新月により身体能力も大幅低下。これは躱せない。


「アル――」

「熾天使の力が最も弱まる新月の日。魔力感知に反応しない精霊術で不意打ちしてカレンを殺そうという作戦だろうが運の悪いことだ――『氷葬月華ひょうそうげっか』」


 くるりと向きを変え、凄まじい速度で螺旋回転する水の槍を居合にて斬り落とすアルフェナ。斬られた瞬間、地面に落下する凍り付いた槍。


「なっ――」

「カレン、貸し1つだ」


 妖刀を鞘に納め、ふふっと笑うアルフェナ。

 螺旋回転による威力の底上げ。完全無防備な状態でくらえば重傷は免れないだろう。

 しかし、どういうことだ。新月の日とはいえ、魔力感知を得意としている私が魔法の接近に気づかなかったなんて。


「ありがとうアルフェナ、それで、これは――」

「精霊術は初めてか?」

「精霊術……?」

「なるほど、精霊術であればおまえに不意打ちを仕掛けられるのか。貴重な情報だ」


 精霊術ということは、まさかこの槍を飛ばしてきたのは精霊だというのか。


「カレン!? アルフェナさん!?」

「アメル、私から離れないで!! テュア、サツキを連れて早くこっちに!!」

「まりょくをまったくかんじないこうげき。かれん、てゅあのいのちをねらってきたやつとおなじだよ!!」


 サツキを回収し、私に駆け寄ってくるテューエ。


「カレン、精霊術の感知はできるか」

「できない、というかやったことない」

「じゃあ、今覚えろ。魔力感知を停止させて自然の気配を掴むんだ。自然現象の揺らぎを通して精霊の気配を感知しろ。精霊が存在していれば自然の違和感が必ず発生する」


 魔力感知を停止させ、静かに目を閉じる私。

 ぽつんと1つ。遠く離れた海の方から感じる独特な気配。


「これか……!!」


 襲い掛かる水の槍をひらりと躱し、精霊の気配がする方へと視線を送る。


「さすがだな」

「……まって、気配が消えた」

「なに……?」


 さっきまで感じていた気配が一瞬で消えた。

 私の発言を聞いたアルフェナが妖刀を構えようとした時、1人の少女が空中に姿を現す。

 ふんわりとした短い蒼髪。海を連想させるような蒼眼。背中に生えた透明な羽。前髪を水色のピンで留めて可愛らしくおでこを出している。

 リンゲルの果実の2倍くらいの大きさだったナトゥアとは違い、この精霊は人間と同じくらい大きい。


「やあ☆」


 音もなく、私たちの目の前に現れた。

 反応が一瞬遅れ、武器を手にする私とアルフェナ。


「聖槍アルジェーレ」

「『氷葬月華ひょうそうげっか』」


 聖槍アルジェーレと白詠終華はくえいしゅうかから繰り出される逃げ場のない同時攻撃。

 しかし、その攻撃は虚空を切る。


「怖いな~☆ 出会って早々殺す気満々じゃん☆」

「えっ?」


 声に反応し、後ろを振り向くと巨大な水球にアメルが閉じ込められていた。


「ごぼっ……!!」

「アメル!!」


 息を吸い込む暇もなく突然閉じ込められたせいか、肺の中の空気を全て吐き出してしまうアメル。


「溺死はつらいよね☆」

「あめる、いまたすける――『天竜ノ咆哮てんりゅうのほうこう』」


 テューエの口から放たれる風の渦が、アメルを包み込んでいる水球を吹き飛ばした。

 水球が消えたことにより地面に落下し、ゲホゲホと咳き込むアメル。


「「ナイス!!」」

「ふふーん、てゅあつよい」

「邪魔しないでよ☆ 私は溺れて苦しむ姿を見るのが好きなんだから☆」

「性格が悪いね」

「あはは☆ よく言われる☆」


 真顔の私と、無邪気に笑う精霊。


「殺意マシマシの不意打ちしてきたけど、私に用事でもあるの? 私たち初対面だよね?」

「初対面で間違いないよ☆ 元々用事があるのはそこにいるテューエちゃんだったんだけど、予定が変更になったんだ☆ 海の精霊からテューエちゃんを見つけたって連絡が入ったから来てみたけど、まさかのカレイアちゃんまで見つかっちゃうなんて思わなかったな☆ 運が良いことに今日は新月☆ 熾天使の力が一番弱くなっちゃう日☆ 殺すなら今しかないよね☆」


 顔は笑ってはいるが、目は笑っていない。

 それと、この精霊は私とテューエの正体を知っているのか。


「テューエ? カレイア?」 

「ヴェリティウム神話に登場する熾天使とドラゴンの名前ですね。メイド学校の友人が歴史オタクでしたので少し詳しいんです」


 精霊の言葉に反応するアメルとサツキ。


「じゃあ、どうして――」

「テューエとカレイアの名が出ているのでしょうか」

「それはね☆ そこにいる2体がテューエとカレイアだからだよ☆」


 アメルとサツキの言葉に、笑顔で応じる精霊。


「おい、突然現れて何をおかしなことを言っている」

「んー☆ よくよく見てみたら君はヴァンパイアか☆ うわ、しかも真祖☆ こわーい妖刀を持ってるね☆」

「……私の正体まで即座に見破るか。何者だおまえ」


 アルフェナに質問され、精霊は笑顔を崩さないまま口を開くのだった。


「名前くらいは言っておいたほうがいいよね☆ 私は精霊王を守護する五大精霊の1体――セレイだよ☆ よろしくね☆」

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