第26話『仲良く殺戮』
馬車から出ると、4体のゴブリンが道を塞いでいた。
冒険者から奪い取ったのか、刃の欠けた鉄剣や使い込まれた弓を装備していたり革製の防具を身に纏っている者もいる。
「カレン、皆殺しにするわよ」
「サレン、分かってるじゃん。御者の人、戦いに巻き込まれると危ないから送迎はここまでで大丈夫だよ。荷物もリュックしか持ってきてないし、商業都市まではのんびりと歩いて帰るから」
「俺がいても足手纏いになるだけだから遠慮なく逃げさせてもらう。C級冒険者だろうから心配はいらないだろうが……怪我には気を付けて、危なくなったら俺みたいにすぐ逃げるんだぞ」
「うん」
私たちにアドバイスすると、御者の人は馬車を引いて商業都市に帰っていった。
「4体だし、仲良く2体ずつでいいわよね。アタシは左半分を殺すわ」
「じゃあ、私は右半分だね。ここにいるのは私とサレヴィアだけってことで久しぶりに本気出しちゃうか」
熾天使と最上位悪魔の共闘なんて、歴史上初めてじゃないか。
今まで殺し合ってきたけど、話せば分かり合えるのではないだろうか。そもそも戦争の理由は資源と領土の奪い合いだったわけだし、3界が国交を結べば万事解決。
それができれば数万年も戦争しないか。
「やる気満々なところ悪いけど、全力は出したらダメよ?」
「え?」
天輪と白翼を顕現させようとした時、サレヴィアがいきなり待ったをかけてきた。
ポカンと口を開ける私を見て、サレヴィアが溜め息を吐く。
「アンタが全力を出してみなさい? 大陸が火の海になるだけじゃなくて頭のおかしい魔力圧で世界規模の異常気象が起こるわよ?」
「いや、さすがにそこまでは――」
「全魔力を開放して、エンデヴェークを地図上から消したのはどこの殺戮天使だったかしら。あそこは魔界にとって重要な都市だったのよね。3000年経っても銀色の焔が消えてくれないからいつの間にか観光名所と化したわよ」
「すいません」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
私とサレヴィアが話していると、1体のゴブリンが地を蹴った。剣を振り上げた状態でサレヴィアに襲い掛かる。
「邪魔よ、カレイアと話しているのが分からない?」
「ギャア……」
剣が届く前に、ゴブリンは氷に包まれてしまった。
「ギギィ……」
「ギッ!! ギギッ!!」
凍らされたゴブリンを見て、他のゴブリンはサレヴィアを危険視したのか私に襲い掛かってくる。後衛に弓兵が1体。前衛に剣兵が2体。
「サレヴィア、3体とも殺していい?」
「クエストの報酬金で甘いデザートを奢ってくれるならいいわよ」
「おっけー」
私は『
断末魔の声を上げながら焼けていくゴブリン。震える手を伸ばして助けを求める姿を見て、サレヴィアは苦笑を浮かべている。
「なんていうか、サコレット森林で戦った時、おとなしく降参して正解だったわ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるのよ。その消し炭は、降参せずに戦闘を続けた世界線のアタシよ」
「いやいや、アメルとサツキに手を出さないかぎり私は殺したりしないから」
「どうかしらね」
疑うような目で、サレヴィアが私のことを見つめてくる。
どうやら信用がないらしい。
「まあ、そんなことは置いといて、日が暮れる前にオーガの集落を探そうよ」
「そうね、魔力感知は任せたわ」
「任されました」
私はリュックを背負い直すと、魔力感知を発動させる。現在地から北東へと進んだ場所に魔力反応が30くらい集まっている。
「どうかしら」
「北東に30くらい。多分オーガとゴブリンじゃないかな。面倒だしここからやっちゃう?」
「ダメよ、きちんと目視で確認しなさい。民間人を巻き込んだら冒険者カード剝奪よ」
「冗談だよ。しっかりと冒険者協会の職員やってるじゃん」
「ふふん」
自慢気な表情を浮かべ、髪を払うサレヴィア。
その気になれば、簡単に国すらも滅ぼせる力を持つ最上位悪魔が真面目に働く姿なんて、誰が想像できるだろうか。
「ん?」
サレヴィアの勤務態度に感心していた時、西の方角から接近してくる2つの魔力反応を感知した。
「どうしたの?」
「西の方角から、2つの魔力反応が近づいてくるんだよね」
「ゴブリンの偵察部隊かしら。さっきのはアンタに取られたし、今度はアタシが殺すわよ」
「いや、ゴブリンでもオーガでもない。人間の魔力だよ」
「こんな場所にいるってことは、オーガの討伐に来た冒険者かしら……いや、オーガ討伐のクエストはレスドア支部しか取り扱っていないはず……」
サレヴィアが頭を悩ませていると、西の方角から声が聞こえてきた。
「コルテリーゼ、オーガの村はもうすぐですよ。準備はできていますか?」
「オーガはなかなかの強敵ですが、私とフローラ様の2人なら倒せます。クエストを成功させて御母上様を認めさせましょう」
そんな会話をしながら西の方角から歩いてきたのは、冒険者らしき少女2人だった。
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