第11話
アキトはまだどこか警戒しつつも、レナードの並々ならぬ魔力の気配を感じていた。
(この人、ただの変なやつじゃない……実力者だ)
そんな感覚を覚えながら、彼は一つ深呼吸をして、進行方向に視線を戻す。廃坑の奥はじわじわと強まる魔力で満ちていた。壁面には光蘚がびっしりと生え、淡く青白い光を放っている。
「この先、ルードビッヒってのがいるんだよね?」とアキト。
「ああ、魔界七将の一角。人型に近いタイプだけど、性格がまあ最悪。力の誇示と実験が大好きな変態野郎さ」
「おい、そんなヤツに会いに行くの?」
「だって、依頼があったんでしょ? それに君、気になるんじゃない? その奥に何があるのか」
図星を突かれ、アキトは小さくうなずいた。
「……まあ、気にはなる」
「でしょでしょ! よーし、じゃあレッツ突撃!」
「いや、突撃って……」
レナードは楽しそうに先導して歩き出す。アキトとシロは少し間を置いてそれに続いた。
シロがぽつりと呟く。
「なんかあの人、妙にテンション高いね」
「うん……ちょっと、疲れるかも」
そんな小さな会話を交わしながら、三人は魔の気配渦巻く奥深くへと足を踏み入れていった。
「あ、レナードくん、どこ行ってたの? 麻雀の続きやろうよ~」
軽い口調で、廃坑の奥から聞こえてきたのは、妙にのんびりとした男の声だった。
アキトは思わず足を止めて――
「……は?」
レナードはぴくりと肩を震わせ、アキトの隣で真っ青な顔になっていた。
「えっ……あの……ルードビッヒさま?」
すると、薄暗い空間の奥から、ぬっと現れたのは――
ぼさぼさの髪に、ゆるいローブ、そして手には竹製の点棒ケース。
まるでどこかの下宿からそのまま出てきたような風貌の男が、無造作に現れた。
「やっほー、レナードくん。もう東三局まで進んでたのに急に抜けるなんてマナー違反だよぉ?」
アキトの脳内に、ズバッと突き刺さる違和感。
(……コイツが、魔界七将のルードビッヒ……?)
見るからに緊張感ゼロのその男は、シロを見るなり「あっ、かわいい狼だ」と手を振ってきた。
レナードがそっとアキトに耳打ちする。
「……あれで本気を出したら、山一つ消し飛ぶほどの魔力なんです。気をつけてください。テンションは低いけど、能力は桁外れです」
アキトはますます混乱しながらも、なんとなく、これはまた面倒な相手と関わる予感がした。
ルードビッヒはアキトを一瞥し、「へぇ」と感心したような声を漏らした。
「なんだか妙なオーラ持ってるじゃん、君。魔力の色も珍しいし……」
アキトが警戒しながら一歩引くと、ルードビッヒはぱっと目を輝かせた。
「ねえ! 君! 麻雀やろうよ!」
「……は?」
今度こそ、完全に意味がわからなかった。
「いやだって、そっちの狼くんも頭良さそうだしさ、四人揃えばちょうどいいじゃん? ね? 東風戦で軽く一局!」
シロが小首をかしげながら、「まーじゃんってなに?」とアキトに小声で訊ねる。
「……なんか、牌を使った人間のゲームだ。たぶん賭け事の類いだと思う」
「アキトくん、それ知ってるの?」とレナードが驚きの表情を浮かべる。
アキトは肩をすくめながら、「昔、別の世界で少しだけ……」と曖昧に答えた。
ルードビッヒはというと、すでに床に麻雀卓(自動)をセッティングし始めていた。
「大丈夫大丈夫! 魔力で動くから! コンセントいらない! さ、早く座って座って~!」
――こうしてアキトは、魔界七将との戦いでもなく、対話でもなく、まさかの異世界麻雀対局へと巻き込まれることとなるのだった。
――東一局、開始。
牌山が自動で積み上げられ、卓に淡い魔力が巡る。不思議なことに、牌の文字も模様もすべてアキトには日本語のように見えていた。
「君、北家ね!」
ルードビッヒがニッと笑いながら親を宣言し、東の席に座る。
アキトは静かに北の位置へと座った。瞬間、頭の奥に軽い電撃のような感覚が走る。
――《瞬間スキル》取得
【雀士の眼 Lv1】
※麻雀の配牌時、自動的に場の流れを読み込み最善の打牌候補を3つ表示する。
――《雀士の手》取得
※ツモ時、指先が自然と理牌と最適化された動きを記憶する。
――《麻符解析》取得
※魔界式麻雀における魔力付加牌を読み解き、自身に有利なエネルギーを取り込める。
「……なんだこれ」
アキトは無意識に牌を並べながら、動揺を隠せなかった。
「へぇ、すごいね。もう慣れてるじゃん」
レナードが南家から茶をすする。
「初心者じゃないでしょ、それ。というか初めてで《雀士の眼》覚えるとか……」
シロは西家でちょこんと座り、前足で器用に牌を並べている。
「オレ、なんか強くなってる気がするんだけど……この麻雀って……戦闘スキルなのか?」
アキトがぽつりと呟くと、ルードビッヒは楽しそうに笑った。
「当たり前じゃん! 魔界では麻雀こそが実力を証明する最古の儀式だよ!」
――そして、静かに東一局が幕を開けた。
アキトは配られた牌を一つ一つ丁寧に並べる。
リーチはまだ先だが、明らかに流れが自分に傾いてきているのを感じる。
手牌:一萬・二萬・三萬・五索・五索・六索・七索・八索・九索・東・東・南・南
(このままいけば――)
その瞬間、また頭の奥に光が走る。
――《瞬間スキル》取得
【読風眼(どくふうがん)Lv1】
※他家の捨て牌、テンポ、視線から心理と役構成を推定できる。
【魔力同調牌(マナ・リンク)】
※ツモ時、自身の魔力と牌の魔力が共鳴し、有利な牌を引きやすくなる。
【流局回避】
※場全体の流れを読み、対局が流れそうな際に打開の道を一手前に導く。
(……え、これ完全にバトルシステムじゃん)
アキトは静かに五索をツモり、場に打ち出した。
その手つきに、ルードビッヒが目を細めた。
「ふーん、やるじゃんアキトくん。
その打ち方――魔界では“銀狼の型”って呼ばれてたやつだよ」
「知らねーよそんなの……」
しかし内心、アキトは確信していた。
――これは戦いだ。牌を握るたびに、自分は強くなる。
シロもまた西家でそっと頷く。
「こいつ、まじで才能あるかも」
東一局、続行中。
場の魔力がさらにざわめきはじめる。
東一局、北家アキトの配牌は順調に伸びていた。
一打一打に宿る集中、そしてその背後に宿るスキルの閃き。
そのとき――また脳内に響く音とともに、スキル取得の演出が走った。
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※《打牌演武(ダーハイ・エンブ)》取得
──捨て牌の動作によって相手に威圧・幻惑を与える特殊技巧。演出が派手になるほど効果大。
※《静読の極意》取得
──相手の打牌意図を静かに読み取り、流れの未来を掴む力。
※《理牌自動化》取得
──無意識のうちに最適な形で手牌を整える技術。無駄のない美しい牌運びが可能となる。
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(……いやいやいや、なんで俺こんなにスキル覚えてるの!?)
頭を抱えそうになるが、ルードビッヒはニヤリと笑っていた。
「キミ、センスあるよ。その“理牌”、すごく綺麗。…どこの道場出身?」
「道場!? いや俺ただの旅人なんだけど!」
「ふふ、まさか“旅人流”か……やるなあ」
(どこにも存在しない流派を勝手に生み出すな)
ルードビッヒは楽しげに萬子をツモり、軽やかに「ツモ」と宣言する。
東一局はルードビッヒの和了で終了。
点数計算が始まろうとしたその時、またもやスキル取得演出。
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※《点数計算マスター》取得
──点数計算を一瞬で完了できる脳内処理能力。チート級に便利。
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アキトは静かに心の中で呟いた。
(……これ本当に、麻雀だけでどこまで成長していくんだ?)
そして東一局2本場開始
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