第49話 “もう一人の信長”爆誕。やめろ、それワシちゃう
「我が父、織田信長様。どうか、わたくしと共に……この国を救ってください」
王女リューシアは、深々と頭を下げた。
それに対する信長の返答は、わずか0.2秒だった。
「いやです」
リューシアの背後で兵士が剣を構え、政宗が一歩前に出る。
「やめろ、やめろ! 暴力はいかんぞ! ワシ、争い苦手なタイプなんじゃ!」
汗だくで手を振る信長。その様子を見て、リューシアが小声でつぶやいた。
「……伝説の“魔王信長”が、こんなにもヘタレだったなんて……」
信長はそれをしっかり聞いていた。
「聞こえとるからな!? ワシ、そもそも伝説になった覚えもないしな!?」
ミリアがぽつりと呟く。
「でも不思議よね。信長、魔法使えないのにどうやってこの世界で伝説に?」
その瞬間、城の奥から別の足音が響いた。
「おいおい、そんな言い方はないだろう。我こそが、真の“信長”よ」
場の空気が凍りつく。
現れたのは、信長そっくり……いや、どこか“凛々しく威厳ある”信長だった。
艶のある黒髪、鋭い眼光、そして堂々たる立ち姿。
信長本人が絶句した。
「……誰やお前!!?」
そっくりすぎる“偽・信長”は、胸を張って名乗った。
「我が名は、織田信長・真打! 異世界に飛ばされた直後、神の加護を受けて最強の魔王となった、真の姿だ!」
政宗が耳打ちする。
「おい……信長って、異世界に複数人転生してるのか?」
信長は震える声で答える。
「知らんわ!! ワシはただ、自害して気がついたらここにおっただけや! 何で“真打”とか出てきとんねん……!」
偽・信長――真打は、リューシアに近づき、優しく頭を撫でた。
「我が愛しき娘よ。こんなヘタレに騙されてはならぬ。我こそが、真の父だ」
「いや、怖い怖い怖い! ワシ、DNA検査要求するで! 今すぐ!」
その場にあった謎アイテム「魔法的血統判定水晶球」が光り出す。
政宗が球を持ち上げ、宣言した。
「では、どちらが父か、白黒つけようじゃないか!」
球がリューシアと信長(2人)の前に浮かぶと、光がピカーンと弾けた。
次の瞬間、浮かび上がった文字は――
《両方一致》
「なんでやねん!!!!」
信長と真打が同時に叫んだ。
ミリアがぽそっと言う。
「……じゃあつまり、クローン?」
セレスが真顔で分析する。
「異世界に飛ばされた際、信長様の魂が“善”と“魔”に分離された可能性があります。どちらも“信長”なのです」
「ほなワシ、善やん! こっちは魔やん!」
「だが善のほうが酒飲んだら獄炎ぶっぱなすという矛盾……」
政宗の言葉に、全員が目をそらした。
――そうして、紅月王国を巡る“信長対信長”の構図がいま、幕を開ける。
*
王都を包む不穏な空気。
「真打・信長」の登場により、城の兵士たちは完全に混乱していた。
「そ、そっちが本物の信長様だったとは……!」
「いや、あっちもなんか血縁って判定されたし……」
「どっちだよ……!」
民衆はSNSならぬ“魔導掲示板”に「#信長どっち?」のタグをつけて議論を繰り広げていた。
中には「どっちでもいいから早く戦ってほしい」派も多い。
一方、当の本人――いや、本人“たち”は、広場で向かい合っていた。
「ええか、ワシは戦いたないんや。でもな、偽者がワシの名を騙るのは黙ってられへん」
弱気ながらも、いつになく芯のある目をしていた“元祖”信長。
対する“真打”信長は、余裕の笑みで構える。
「ならば証明しよう。我こそが真の“魔王”であることを!」
ピリリリリ……
その瞬間、空気が割れるような音とともに、もう一人の影が舞い降りた。
「やめろォーーーい!!!」
全員が振り返る。そこに立っていたのは――
「第三の信長……だと……!」
褐色の肌に白髪。両手に鉄球をぶらさげた“武闘派”の信長だった。
口調もどこかチャラく、言葉の節々に「YO!」がつくというキャラ過多ぶり。
「YO! オレっちも信長! 名前は“信長Z”。異世界に転生したら、筋肉信仰の部族に拾われて育っちまったぜYO!」
元祖信長が、もう限界という顔で頭を抱える。
「なんやねんこの展開!? 読者ついてこれるか!?」
政宗も隣で頭を抱えた。
「こっちは“善”、あっちは“魔”で、こっちは“筋肉”……おい、分類が雑すぎるぞ!」
だが、真打・信長Zはどちらも睨みながら叫ぶ。
「いい加減にしろやァ!!!」
その叫びに、地面がビリビリと震えた。
「お前ら、何をグダグダやってんだ! 世界を救うのは誰かだって? そんなの関係ねぇ! 筋肉だ! 最後にモノを言うのは、バルクとパワーだYO!!!」
真打が剣を抜き、魔力を纏う。
「黙れ、筋肉信者。魔法の時代に原始的な思想を持ち込むな」
信長Zが鉄球を振り回す。
「じゃあ証明しようぜ! どっちが強いか! どっちが信長か!」
ミリアがぽつりと呟いた。
「ねえ……そろそろ“信長会議”開いたほうがいいんじゃない?」
セレスも頷く。
「確かに。もはや戦って決めるより、会議で議決した方が建設的かと」
リューシアが仕切りの手を上げた。
「それでは、開催しましょう。“異世界信長サミット2025”を!」
会場が急造された。丸いテーブルに三人の信長が座る。
議題はひとつ――「信長とは何か」
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