第16話:ふたりの距離

週明けの学校。

藤本悟は、いつもより少しだけドキドキしていた。


(昨日、茜と手、繋いだんだよな……)


学校という“日常”に戻っても、ふとした拍子に思い出してしまう。

あの温もり。あの約束。


教室に入ると、七瀬茜がいつも通りの笑顔で手を振ってくる。


「おはよ、悟くん!」


「……おはよ、茜」


自然な挨拶。でも、心のどこかで意識してしまう。


(これまでと同じなのに、違って見える)


昼休み、茜が悟の席にやってきた。


「ねえ、今日帰りにちょっとだけ寄り道しない?」


「いいよ。どこ行く?」


「公園。ちょっとだけ、話したいことあるんだ」


放課後。

ふたりは学校近くの小さな公園へ向かった。


ベンチに並んで座り、春の風を感じながら、茜が口を開く。


「……悟くん」


「うん」


「私、思ったんだ。アプリで出会った頃より、今のほうが悟くんのこと、もっとちゃんと知りたいって」


「俺もだよ」


「それでね、もうちょっとだけ、ふたりでいる時間を増やしたいなって思った」


悟は一瞬、驚いた顔をしたあと、すぐに笑った。


「俺、毎日でも一緒にいたいくらいだけど?」


「バカ……!」


茜は頬を赤くして、軽く悟の肩を叩いた。

でも、その顔は嬉しそうだった。


沈黙がふたりの間に流れる。

だけど、その沈黙は心地よいものだった。


(ふたりの距離は、確実に近づいてる)


そんな確信だけが、胸の奥に静かに灯った。

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