円環の魔女と呪いの忌子
漁火ナナギ
前編「円環の魔女は夜闇に笑う」
寒い、とても寒い、夜の事だった。降りしきる雨の中、枯れ木に身を寄せるようにして、一人の少年が座り込んでいる。俯き寒さに震える彼の体には、鱗のようなアザが浮かんでいた。
「…おや、蛇の呪いとはまた、難儀だねぇ」
不意に、雨音の向こうから声がした。そして闇夜の中から、夜よりも黒い装束を纏う人影が現れる。大きな三角帽子に、ゆったりとしたローブを羽織ったその老婆の姿は、まるで御伽噺で言う魔女のようだ。雨の中、傘も差していない筈ではあるが、その体が一切濡れていない事からも、彼女が只の老人ではない事を示している。
「こないで…呪いが
視界の端に老婆を認めた少年が、絞り出すような掠れた声を上げる。その言葉に、老婆は小さく笑みを作った。
「おや、私を誰だと思っているんだい? 人の理から外れた、円環の魔女様だよ」
少年の言葉を無視して、老婆が歩み寄る。かと思えば、老婆とは思えない軽い手つきで、少年をひょいと抱え上げた。驚いた少年が微かに身を捩るも、老婆の手は微動だにしない。
「丁度召使が欲しかった所なんだ。坊やは運がいいねぇ」
少年の抵抗など意に介さず、くつくつと笑いながら、老婆は何処かへと歩き出す。後に残ったのは、真っ白な髪の残影と、もう頼る者も居なくなった枯れ木だけだった。
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