第61話 事が中に、なのめなるまじき
【訳文】
家庭の主婦の仕事の中でも、いい加減になってはいけない、夫の世話をする方から見ると、もののあはれを知り過ぎていて、ほんのちょっとした心遣いがあり、趣あることに突き進んでいく方面は、なくてもよいだろうと思われますが、また実直一方で、額髪を耳の後ろにかきあげてはさみ、美しくない主婦が、ひたすら打ち解けた世話だけをして、なりふり構わない世話女房もどういうものでしょうか。夫の朝夕の朝廷の出入りにつけても、公私それぞれの振舞や、善い事悪い事の、目に耳にも止まる有様を、どうして親しくない他人に、わざわざすっかりそのまま事実を伝えるでしょうか、いやそんなことする訳がないですよ。やはり身近に生活を共にする親しい妻で、聞きわけがよく話を理解してくれる人と、語り合いたいものだと、おのずと笑みがこぼれたり、涙ぐんだり、もしくは、むやみに義憤を感じたり、自分の心の中だけに収めておけないことなどが多くあるのを何で妻に聞かせようと思いましょうか、聞かせても仕方がないと思うと、ついそっぽを向くことになって、人知れず思い出し笑いもしてしまい、「ああ」とも、つい独り言を言ってしまうと、「何事ですか」などと間の抜けた顔で夫を見上げていたとしたら、どうして残念に思わないでしょうか、いや残念でなりません。
「まだ左馬頭の話は続きます」
「世話をするは原文だと「後見(うしろみ)」と言うで」
「夫の世話のような日常的なことから、公の場での補佐役としても使われます」
「『源氏物語』を表す「もののあはれ」が出て来たな」
「本居宣長の『源氏物語玉の小櫛』で何回も説明されていますね」
「美しくない主婦を原文だと「美相なき家刀自」と言っているで」
「刀自は「戸主」が転じて、一家の主婦、女性に対する敬称です」
「家事をする女性を「耳はさみがちに」と言ってるな」
「世話焼き女房、別にいいじゃないですか」
「家事を一生懸命頑張る女性は応援するで~」
「何かするときに髪をくくるのは男女共にカッコいいですよね」
「それ作者の癖らしいで」
「そうなんですか。俺が髪長い頃にくくる描写なかったですよ」
「癖なんやから、もっと出していけばええねん。でも女装描写はあったんやろ」
「それも作者の癖ですからね。回想で女装連発とかは避けたい!」
「まあ、それも作者次第やね」
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