第59話 様々の人の上どもを語りあはせつつ
【訳文】
様々な人のこと共を語り合わせながら、左馬頭が「一般的な恋仲として付き合う分には、難がなくても、自分の妻として頼りになる者を選ぶとなると、多くいる中でも、中々決めかねてしまいますねえ。男が朝廷にお仕えし、しっかりした世の柱石となりそうな中にも、本当にその器となる優秀な人材を選び出すとしたら、難しいことですね。しかし、いくら賢いと言っても、一人や二人で世の中を統治していくことも出来ないので、上の者は下の者に助けられ、下の者は上の者に従って、多方面の仕事を融通し合っていくのでしょう。ところが、狭い家の中で主人とすべき人は一人で、思いめぐらすに、備えていなくてはならない大切な物事が、あれこれと多いですよ。ああであればこうであり、一方が良ければ他方が悪くて、人並みにでも、それでちゃんとやっていけそうな女性が少ないので、好色めいた心のおもむくままに、女性の様子をあまた見比べようとする好みではないのですが、ひとえにこの人こそと思い定めることができる伴侶としたいばかりに、同じことなら、自分が力を入れて妻の教育をやり直し整えたりする欠点がなく、何とか気に入るような女はいないだろうかと選び始めた女性が定まりにくいのでしょう。必ずしも自分の理想とする女性に叶わないわけではないが、見初めた契りばかりを捨てがたく、思いを止める人は、誠実であると思われ、そうして、大切に思ってしまう女性のためということもあるのだろうと、奥ゆかしく推し量れるのです。
「左馬頭の話の途中ですが、ここで一旦切ります」
「左馬頭の独壇場やな」
「下の者は上の者に従っては原文だと「下は上になびきて」となっています」
「「上行ふときは下なびく」ちゅう聖徳太子の『十七条の憲法』によっているで」
「一方が良ければ他方が悪くては原文だと「あふさきるさ」となっています」
「「あふ」は「逢・会・合」で、それと対になる「きる」は「切る・離れる」の意で、一方が着く状態になると一方が切れる状態のが原義や」
「それで、物事が食い違ったり、上手く行かず定まらないの意になりました」
「人並みには原文だと「なのめ」となっています」
「ちなみに山などが穏やかに傾いているさまをいう意もあるで」
「さて、良き妻は選び難しという訳ですが……、結婚してる薫さん、どうですか?」
「まあ撫子さん、最初来た時は料理が本当に不味かったんや……」
「どうやって鍛えてもらったのか気になります」
「オカンが気合で鍛え直したで」
「薫さんのお母さん、尊敬しかないです」
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