第49話 まだ中将などにものしたまひし時は
【訳文】
光源氏がまだ近衛中将でいらっしゃった時は、宮中にばかり、よくお伺いなさって、左大臣邸には途切れ途切れにお出でになる。左大臣側では人目を忍ぶ恋などをしているのではないかと疑うこともあったが、光源氏はそれ程、不誠実なありふれた行き当たりばったりの色恋沙汰などは好みではないご性分で、稀には、丸っきり打って変わって、心の限りを尽くす恋を、御心に思い続けなさる癖があいにくとおありで、あるまじき御振舞いも少し混じっていた。
「源氏はまだ宮中に思い入れがあって、正妻のいる左大臣邸への訪問は途切れ途切れになってるようやな。こりゃあ葵の上も怒るで」
「人目を忍ぶ恋を「忍の乱れ」と表現しています」
「これは『伊勢物語』の「春日野の若紫の摺衣しのぶの乱れ限り知られず」から来ているで」
「春日野の若い紫草で染めた、しのぶ摺りの模様が乱れているように(私の心は、美しいあなた達姉妹への恋を)忍んで限りなく乱れております、という意味です」
「左大臣邸では光源氏が浮気をしているのではないかと心配しとるで」
「源氏は「心尽くし」の恋をしているのです」
「心を用いて心がなくなってしまうほど深い物思いをするんや」
「これは藤壺への思慕ですかね」
「そうやろなあ」
「今回は藤原道長の父と伯父の骨肉の争いについて話しましょう」
「藤原氏は身内で権力を争ってきたんや」
「道長の父・兼家は道長の伯父・兼道と長く不仲でした」
「出世においては兼家の方が一歩二歩先を行っていたんやけど、太政大臣・伊尹が没した時、摂政がどうなるかでもちきりやった」
「兼家は次の摂政は当然、自分だと思っていたんですが、兼道が超スピード出世をして、そのまま関白になってしまいました」
「実は、関白は年齢順にという遺言があったらしいんやて」
「それで5年の月日が流れました」
「病気になった兼道が物凄い形相で人事を行ったんや」
「兼家が治部卿に左遷されたのです」
「見舞いにも来いへん奴は左遷じゃという感じやな」
「兄弟といえども確執が酷いと、こうなるんですね」
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