第43話 左馬寮の御馬
【訳文】
左馬寮で飼育されている御馬と、蔵人所の鷹を拳に止まらせて、いただいた。清涼殿の御階段の元に、親王たち、上達部が列を連ねて、禄などをそれぞれの階級に合わせて頂戴なさる。
その日の光源氏から帝への献上物として折櫃に入ったご馳走、籠に入れた果物などは、右大弁が承ってご調達申し上げた。屯食、禄を入れた唐櫃なども、置き場のないくらい狭く、春宮の御元服の時よりも数が勝っていた。かえって制限もなく盛大なのであった。
その夜、左大臣のご自宅に、光源氏をご退出させなさる。婿取りの儀礼は世に例がないほどまでに、丁重におもてなしなさった。光源氏がとても幼くていらっしゃるので、左大臣は甚だしいまでに美しいとお思い申し上げなさった。結婚相手である葵の上は、少し年長でいらっしゃるのだが、光源氏がとても若いので、似つかわしくなく、いたたまれないとお思いになっている。
「光源氏と葵の上の結婚の場面です。沢山の贈り物が贈られてますね」
「馬寮は宮中の馬や馬具、諸国の牧の馬を司る役所やで。左と右とがあるんや」
「蔵人所は天皇の秘書的なことを司る役所で、天皇の鷹も管理しました」
「身分によって与えられる贈り物に差があることを、本文では「品々なり」という語で表しているで」
「折櫃は檜の薄板を折り曲げて作った入れ物です」
「ここで贈られた果物はみかん、橘、栗、柿、梨やで。美味しそうやな」
「屯食は米を蒸した飯を握り固めて卵型にしたものです。つまりは、おにぎりですね。下々の者たちの食べ物です」
「光源氏と葵の上の年齢なんやけど、ここでは明確に示されていないんや。「紅葉賀」にて葵の上の方が光源氏より四歳年上だと明かされるで。元服時の源氏は十二歳、葵の上は十六歳や」
「さすが平安時代、結婚が早いですね」
「今回は『源氏物語』の英訳について話すで」
「一八八二年に官僚の末松謙澄がイギリス滞在中に訳しました」
「それから、およそ四〇年後、東洋学者、詩人のウェイリーも『源氏物語』を訳すで。正宗白鳥からも高い評価を受けるんや」
「一九七六年にアメリカの日本文学研究者のサイデンスデッカーが完訳を出します」
「現在までに少なくとも、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語に訳されとるで」
「このように『源氏物語』は世界に羽ばたいていきました」
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