お題【それが赦されざる罪だとしても】-2

 暗い檻の中に、その存在は繋がれていた。在るだけで周囲を蝕む瘴気を発し、一度声を上げれば耳にした者の魂を砕く。それは、そんな化物だった。


 化物は、身体を雁字搦めに縛められている。しかし、本来であればそのような拘束は無意味に等しく、化物が少し身動ぎするだけで紙切れのように引き裂かれてしまう程度でしかない。その化物が動こうとしないのは、ひとえにその化物の意思によるものだった。


 化物は、この世に生を受けた時から化物だった。どのような由縁か、どのような訳があって生まれたのかは今となっては誰にも分からないが、一つだけ、化物に覚えている言葉があった。


『お前は呪いその物だ。お前という存在そのものが罪なのだよ』


 それが誰の言葉だったか、化物にも分からない。しかし、その言葉は正しいのだと化物は否応なしに理解していた。その手で愛でようとした花は跡形も無く腐り落ちた。その肩に止まろうとした蝶は独りでにバラバラに散った。近くで怯える動物を見遣れば、それだけでその息の根は絶えた。


 幸運だったのは。或いは、不幸だったのは。その化物に知性が有った事だろう。死すら許されない身体を破壊に使う事も無く、化物は緩やかに朽ちる事を願った。やがて化物を見付けた人々により日の光も届かない地下へと追いやられても、その力を恐れた人々により縛められたとしても、化物は只静かに在るのみだった。…一人の人間に、出会うまでは。


 その人間は化物と同質の呪いを受け、故に化物と同じ場所に押し込められた。化物の発する瘴気に蝕まれながら、しかしその人間は化物に怯える事も無く言葉を投げ掛けた。


「…呪いだとか、罪だとか。知ったこっちゃないってのに、嫌になるよね」


 化物は、何も答えなかった。しかし、人間は言葉を続ける。


「…確かに、人間がこの世界で行ってきた事はカミサマからしたら赦されざる罪なのかもしれない。だからって…何もしていない君のようなモノが甘んじて受けるだなんて、間違ってるよ」


 それは、化物にとっては初めての事だった。友好的な言葉を投げ掛けられた事も、間違っていると言われた事も。


「…生まれながらに罪が有ろうとも。赦される事が無いとしても。それでも、こうして目の前に在る君を、私は肯定してあげるよ。…なんて、もうすぐ死ぬ人間に言われても困るだけか」


 そう言って笑う人間に、化物は何も返す事は出来なかった。

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