お題【知を以て理を成し、知を以て理を失う】-4
「すこやかなるときも、やめるときも……えーっと?」
幼い声が、辿々しく誓いの言葉を読み上げる。意味を理解しているのかは怪しいが、真剣な事は確かなようだ。
「よろこびのときも、かなしみのときも。とめるときも、まずしいときも。これをあいし、うやまい、ともにたすけあい……このいのちあるかぎり、まごころをつくすことをちかうよ」
言葉の後を引き継いで、相手の目を真っ直ぐに見据え、手を取り誓う。その言葉に、目の前の相手は花のような笑みを咲かせた。
「…わたしも、ちかうよ!」
その無邪気な言葉を聞いて、心の何処かに棘が刺さったような痛みが走る。相手にとっては、きっといつもの遊びの延長でしかないのだと理解していた。それでも、今だけは家の事も忘れて、この関係に浸っていたかったのだろう。
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泥に沈み込むような感覚に包まれ、意識が浮かび上がってくる。昔の夢を、観ていたようだった。
今日は、家の決めた
…そう。家のためなら、私の意思は関係ない。そういった子どもの道理と我儘は、あの日の思い出の中へと置いてきてしまったのだ。今でも目を閉じれば、未練がましく思い出してしまう顔。婚約者が居る事と身分が違う事を理由として突き放してから、もう随分と経ってしまったのだから。
身支度を整えて、部屋の外へ出る。これから向かう先は、自由の無い牢獄である事は理解していた。だとしても、もう選んでしまった道からは外れられない。飛ぶことを諦めた鳥がもう一度羽ばたく事は出来ないのだから。
重い足取りを誤魔化すように、やけに澄んだ空を見上げた。遮るものの無い、星すら見通せそうな青空に思わず手を伸ばそうとした時、横から不意に、優しく手を掴まれた。
驚いて横を見れば、そこに居るはずの無い人の顔が見えた。何故という言葉が出るよりも先に手を引かれ、式場から反対の路地に誘われる。
「…急にごめんね。でも…あのままお別れだなんて嫌だったんだ。それに……君がそんな悲しそうな顔をしたままなんて、許せなかった」
路地を抜け、門をくぐり、そのまま町外れの野原まで連れられてくる。そこはあの日誓いを交わした場所で。目の前で幼馴染みは息を切らせながら、置いてきた筈の思い出の通り、花の咲くように笑った。
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