お題「二人で一つの運命(しんぞう)」

「おい、生きてるか相棒。頼むよ、起きてくれ」


 長いこと起こしていなかった相棒の鋼の心臓エンジンを、皺が寄り始めた手で乱暴に叩く。一度、二度と煙が吹いたかと思えば、頼りない不安定な駆動音ではあるが、手入れだけは欠かさなかった甲斐有ってゆっくりと羽根を回し始める。


「…はは。いい子だ。…何年ぶりだろうな。昔はお前も最新鋭、俺も若かった。仲間と一緒に空を飛んで、死ぬのはお前と一緒に空の上だとばかり思っていた。だがどうやら、死神は俺達の事を嫌っていたみたいでな。仲間はみんな空の上なのに、俺達だけ置いてきぼり。戦闘機乗りなんて必要無い世の中になりやがって、やることもなく年だけ食っていきやがる」


 語りかけるようにしながら乗り込んで、久しぶりに操縦桿を握る。頭はすっかり鈍くなっても、身体はしっかりと相棒の事を覚えていた。


「…なんでも、向こうの海にとんでもない物が落ちてきたらしくてな。どうにかしようにもお上は会議だなんだとぎゃーぎゃー騒ぐだけ。現役の兵隊さんがやってくる頃には、この街がどうなるかなんて分かったもんじゃない。それなら、やれるもんはやっとかにゃあならんだろうさ」


 ロクな武装も無し。辛うじて機銃に弾が残っちゃいるが、豆鉄砲もいいところ。再び地に足を付けられるなんて思ってはいない。それでも不思議と、心は穏やかだった。あの日死に損なったのは、きっとこの日の為だったのだろう。


 そんな事を思いながらも、手は淀みなく離陸の準備を始める。機体が軋みながら動き始めたと思えば、急に轟音を轟かせながら加速を始め、年老いた体が悲鳴を上げる。


「なんだ、拗ねてたのかこのじゃじゃ馬! そういえば昔からそうだったな! 悪いが老人の我儘に付き合ってもらうからな!」


 意識を持っていかれそうになりながら、負けじと声を張り上げる。頼むから持ってくれよ、心臓/エンジンよ。お前が墜ちれば俺も死ぬ。俺が死ねばお前も墜ちる。どのみち最期の花道だ。故郷の一つぐらい、守り切るまで飛び続けよう。

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