第19話 〜アインシュタイン殺害事件〜

ゼフ「昨晩、科学部門代表者であるアインシュタインが……串刺しにされた状態で発見されました」


重い空気が一同を包み込む。


アブラー「まさか……こんなことが起こるとは思わんかったわ」


アレクサンドロス「……神の力で復活させればいいんじゃないか?」


軽く口にした言葉に、ゼフが冷ややかに答える。


ゼフ「神の力による復活は一度まで、という制約がございます。

もう一度蘇生することは……不可能です」


アレクサンドロス「チッ、融通が利かねえな」

不機嫌に舌打ちをする。


武蔵は腕を組み、呆れたように笑った。


武蔵「もう正直、犯人誰か、みんな分かっとるやろ……」


全員の視線が自然と、ある男に向かう。


ウラド「俺様じゃあないぞ」

にやりと不気味に笑い、肩をすくめる。

「そんなことするメリットが無い」


アレクサンドロス「お前はメリットなんぞ無くても、気分で人を串刺しにしそうだけどな」


ウラド「……はっはっは。まあ、否定はしねえがな」


ピリピリとした空気を収めるように、ゼフが手を上げた。


ゼフ「犯人はまだ特定されておりません。無闇に疑心暗鬼にならず、冷静さを保ってください」


無言だった呂布が、ふと口を開く。


呂布「……俺は、ウラドが策も無しに動くとは思えん」


その言葉に、アブラーも小さく頷く。


アブラー「せやな……もし、策のための準備やったとしても、やりすぎや。

神々の遊びでも、これはちと後味が悪い」


ソクラテスが、静かに手を挙げる。


ソクラテス「次に狙われるとすれば、知性・芸術・指揮部門……つまり、私やダ・ヴィンチ、ナポレオンあたりが危ない、というわけですな」


レオナルド・ダ・ヴィンチも、真剣な表情で口を開く。


ダ・ヴィンチ「犯人が『知性』を恐れたなら……標的は我々だろう。備えねばなるまい」


アレクサンドロスがニヤリと笑いながらウラドを見た。


アレクサンドロス「でもよ、串刺しだろ? やっぱりウラドの趣味としか思えねえんだよな」


ウラド「ハハッ、俺様を舐めるなよ。もっと凝った殺しもできるぜ?」


ゼフがため息混じりに場を収める。


ゼフ「……仮に犯人がこの中にいたとしても、現時点で処分はできません。

神のルールに従い、今夜は特別措置を取らせていただきます。

全員の部屋の前に護衛を配置します」


呂布が低く呟いた。


呂布「……この面子だと護衛ごと殺されるかもな」


武蔵もまた、薄く笑った。


武蔵「ま、殺る気のある奴を止めるのは至難やな」


その時、アブラーが静かに締めた。


アブラー「──これ以上犠牲が出たら、神も遊びどころやない。

次が起こったら……どっちにしても、何らかの『裁き』は必要やろな」


重苦しい沈黙だけが、その場に残った。


──そして、次の夜。


不穏な空気を纏った夜が訪れた。


護衛たちは昨夜の惨劇を受け、警戒を強めていた──

だが、無情にも”それ”は再び起きる。


護衛二名。

何者かによって一瞬で命を絶たれ、無残に倒れていた。


そして──

護衛の向こう、ソクラテスの胸を貫く一本の長槍。


長大な槍──サリッサが、深々と胸に突き立ったまま、ソクラテスは血に染まり息絶えていた。


まるで、力と技術を誇示するかのように。


争った形跡も、悲鳴もない。

完璧な奇襲と、一撃必殺。


──翌朝。


ゼフ「……哲学部門代表、ソクラテス。護衛二名も含め、死亡が確認されました」


集められた人類最高峰者たち。


武蔵「……また、か」


アブラー「護衛もろとも……しかもあのサリッサやろ?タチが悪いわ」


ウラドはクックックと喉を鳴らして笑った。


ウラド「まるで誰かを犯人にしたいみたいだな」


アレクサンドロスはサリッサをじっと見つめ、静かに目を細める。


アレクサンドロス「……いや、これじゃあ露骨すぎる」


ゼフが言葉を重ねた。


ゼフ「武器の特徴は一致していますが、確証はありません。

あくまで現時点では、“誰のものかは分からない”扱いとします」


空気は最悪だった。


全員が、疑心暗鬼に陥りつつあった。


アブラー「他の神々がこんなに陰湿なことをするとは思えんし、手だれの護衛ごと殺したってことは恐らく武力戦出場者やろうなぁ」


重く沈む空気の中で、アブラーが低く告げる。


そんな中ダヴィンチとナポレオンは顔を見合わせる。


ダヴィンチ「……順当に考えれば、次は私たちか」


ナポレオン「我なら自衛できるがダヴィンチは危険だな…かといってこの状況下で他の奴と居るのは危ない」


ゼフは冷静に告げた。


ゼフ「今晩も護衛を二重に増員します。ですが……相手が本気で狙ってくるなら、護衛だけでは防ぎきれないかもしれません」


ダヴィンチ「……つまり、各自で生き延びるしかない、か」


ナポレオン「ふざけるなよ……こんなの、ただの殺し合いじゃねえか」


誰かが、どこかで喉を鳴らして笑った。


生き残るためには、誰を信じるべきか。

疑うべきは誰か──

それぞれの心に、冷たい問いだけが突き立てられる夜だった。


次の夜、ダヴィンチとナポレオンの護衛のみが殺されていた。


そして、運命の夜がふけた。


夜明けと共に、ゼフの怒号が響いた。


ゼフ「……まただッ!! 護衛が……殺されています!!」


駆けつけたアブラーが現場を確認し、目を細める。


アブラー「……これは……完全にプロの仕業やな。急所を一突き、気配も残さず。警戒していたはずやのに……」


そこには、ダヴィンチとナポレオンそれぞれの護衛の亡骸が、血の海の中に倒れていた。どちらも表情を残す間もなく絶命していた。


アブラー「狙いはダヴィンチかナポレオンのはずやのに……なんで本人らは無事なんや……?」


ナポレオンは怒りを押し殺した声で言い放つ。


ナポレオン「……俺たちを試しているんだ。恐怖を植え付け、警戒を崩そうとしている。まるで戦争だ……心理戦のな」


ダヴィンチも眉をひそめ、呟いた。


ダヴィンチ「明確な悪意を持った“意志”がこの場に存在する。これは偶然ではない」


ゼフは二人を睨みながら言った。


ゼフ「護衛を突破できる人間なんて限られています。これが偶然じゃないなら……疑わしいのは、限られてきますね」


武蔵は静かに立ち上がり、辺りを見回した。


武蔵「……いよいよやな。この中に、ただの戦いやのうて、何か別の目的を持っとるやつがおる」


空気が、凍りついた。


犯人の正体は未だ不明。

だが、確実に誰かが“殺し”を続けている。


神々の退屈しのぎの舞台は、今や狂気に包まれつつあった――。


不穏な空気が漂う中、次回ウラド対信長準備編。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る