疾風

青白い霊潮の光がゆらめき、足元に映る影が波のように揺れた。

玄作の怒号を合図に、義肢兵五人が蠢いた。

戦いの空気が一気に張り詰める。


「来るぞ!」


蒼龍の短い声と同時に、二人は左右へ散った。

敵陣を裂くように、義肢兵たちも動く。蒼龍の前に二人、瑠宇の前にも二人、そして中央に隊長格。


蒼龍は鞘を払った。

刃が抜ける音が、静かに空気を切り裂く。


まず一人目。

義肢兵の刃が夜叉のごとく振り下ろされる。

蒼龍はそれを半歩だけ下がり、袖から放った霊鉄鎖を一閃。

鎖はしなる蛇のように敵の剣腕を絡め取り、肘を逆にねじる。


「甘い!」


蒼龍は声とともに、刃をひと閃。

絡め取られた義肢兵の首が、肩ごと裂けた。血煙が霊潮の流れに溶ける。


次いで、背後から別の義肢兵が突進してくる。

蒼龍は霊鉄鎖の端を床に叩きつけ、跳ね上がった鎖で敵の膝裏を打った。

膝を砕かれた義肢兵はうずくまった。

そこへ迷わず刀を突き立て、喉笛を一突き。


たった数秒で、蒼龍の周囲から二つの気配が消えた。


瑠宇もまた、火縄銃を巧みに操っていた。


瑠宇の手には、城の蔵から持ち出した『連発火縄銃』。

三つの砲身を束ね、引き金を引くごとに連続して弾丸を放つ改造銃。

しかし重さも尋常ではなく、火縄の管理も難しい。


片手で早合を次々と押し込み、火花を散らして発砲する。


最初の一発で、一人目の義肢兵の胸を撃ち抜く。

重い鎧を着た義肢兵だったが、霊合弾の霊気が貫通し、背中から噴き出す。


二発目は間を詰めてきたもう一人の腹部へ。

火花とともに内蔵が飛び散り、義肢兵は呻きもせずに地面へ崩れた。


その時、隊長格が一気に間合いを詰め、雷鳴のような剣撃を振るった。


瑠宇は連発火縄銃で受け止めたものの、あまりの威力にたたらを踏んだ


隊長格の男が、ぎしりと義肢を軋ませ笑う。


「おもしれえモン持ってんな……」


次の瞬間、隊長が地を蹴った。

霊潮の光を弾き飛ばす勢いで、刀を振りかざして突っ込んでくる。


「はぁッ!」


瑠宇は迷わず引き金を引いた。


──バン!


一発目が撃ち出され、隊長の肩口をかすめた。

しかし、止まらない。


「甘い!」


隊長は体をひねりながら間合いを詰める。

瑠宇はすかさず二発目。


──バン!


今度は膝を狙ったが、ギリギリで義肢の装甲に弾かれる。


(三発目で決める──!)


三発目の引き金に指をかけた、その刹那。


隊長の刀が光った。

刀閃が横薙ぎに走り、銃の根元を断ち割った。


「──ッ!」


連発火縄銃が、悲鳴のような火花を散らして崩れる。

バラバラに砲身が飛び散り、使い物にならなくなった。


瑠宇は咄嗟に後退し、腰の霊合火縄銃を引き抜いた。

──自分の、いつもの銃だ。


隊長は笑う。


「今度は逃がさねえぞ!」


刀が、咆哮のように振り下ろされる。

瑠宇はぎりぎりで身をかわし、火縄銃を突き上げるように構えて撃った。


だが、男の体裁きで躱され、刀が銃を叩き折らんと振り抜かれる。

瑠宇は一歩だけ引き、刃を砲身で滑らすように軌道をそらす。


銃口と剣先が、紙一重で交錯する。霊気がざわめき、剣圧が頬を裂く。


瑠宇は一瞬の隙を見つけ、火縄銃を捻った。

狙うは、隊長の脇腹──。


しかし隊長は読んでいた。

逆に回り込み、瑠宇の死角へと滑り込む。


「──もらった!」


隊長の刀が煌く。


その時。


「遅いぞ、瑠宇!」


鋭い声とともに、鎖が疾走した。

鎖は隊長の片腕を絡め取り、動きを封じて刀の向きが逸れたがその勢いのまま男は瑠宇を蹴り飛ばす。


隊長が鎖を振りほどこうともがく間に、吹き飛ばされた瑠宇は立ち上がり狙いをつけた。

そして、引き金を引いた。


──バン!


霊合弾が、隊長の胸を撃ち抜いた。

よろけた隊長の隙を、蒼龍が逃さない。

細身の刀が一閃、義肢と肉体の境を切り裂いた。


隊長は短く呻き、崩れ落ちた。


二人、互いに微かに頷きあった。

隊長の巨躯が霊潮の床に沈み、あたりは途端に静けさを取り戻した。


火薬と霊気のにおいが、まだ鼻をつく。

瑠宇は呼吸を整えながら、手にした火縄銃をそっと下ろした。


「……終わりましたか」


「いや」


蒼龍は短く言い、剣を下ろさずに立っていた。


倒れた隊長の周囲には、霊潮の光がうっすらと集まり始めていた。

まるで、死者を惜しむように、あるいは、さらなる異変を予感するように。


「玄作のもとへ急ぐぞ、瑠宇。ここで長居は無用だ」


「はい」


瑠宇は即座に頷き、銃の火縄を確かめた。

小さな火はまだ灯っている。

すぐにでも、次に備えられる。


蒼龍は隊長の遺体に目をやった。すでに物言わぬ躯と化した隊長はゆっくりと霊潮の底へと沈み始めていた。

そのうち流れる瓦礫の一つとなり果てるだろう。


「玄作を──」


蒼龍が言いかけたそのとき。


遠く、瓦礫の向こう。戸が開け放たれた小屋の中、なお筆を走らせる玄作の姿が目に入った。


まるで、周囲の混乱など一切気にも留めず。

ただひたすら、ただ一心に、

書き続ける。


「あれは──」


瑠宇が声を詰まらせる。


玄作の手元には、遠目からでもわかるすでに仕上がりかけた護符があった。

蒼龍は目を細め、その護符に込められた異様な霊気を感じ取る。


静かになった霊潮の空間に、義肢の駆動音も、剣戟の音も、もうなかった。

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