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細井真蔓

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 【場所】

 市立御影山高等学校体育館西側入口

 

 【人物】

 田島完(たじまかん)・17歳・高校生

 水上大翔(みずかみひろと)・17歳・高校生



「おー、大翔」

「あ……うす」

「いまメシ中?」

「まあ、うん」

「メシそんだけ? サンドイッチのみ?」

「あー……だね。おれ昼あんま食わないから」

「いつもここで食ってんの?」

「や、待ってたついでに」

「ふーん。で、何? 急に。久しぶりじゃん」

「あー、うん。えーと……」

「ん?」

「えっと、完ちゃんさ……ズタモン持ってたよね」

「ズタモン? ゲームの?」

「じゃなくて、漫画のほう」

「あー、あったと思うけど……なんで?」

「それさあ、誰かに貸したりできる?」

「え、なんで? おまえズタモン好きだっけ?」

「や、好きっつーか、なんだろ」

「ん?」

「……」

「え? これなんの話?」

「やましろ……、完ちゃん、山城って覚えてる?」

「山城って……あの山城か? おまえの兄ちゃんの、友達……みたいな」

「そう、友達みたいな山城」

「覚えてるよ。で、山城がなに?」

「なんかさ、山城が、最近ズタモンにハマってるらしくて」

「うん」

「それで……」

「それで、おまえの兄ちゃん経由で、おれに漫画貸して欲しいって?」

「まあ……そんな感じ」

「やだよ、おれ。山城とか」

「……」

「おまえに貸すならいいけど、山城はないわ」

「……だよね」

「だって山城ってあれだろ、おまえ、最近の話はあんま知らねえけど、高校出てチンピラみたいなことやってんだろ」

「そういう噂あるよね」

「おまえ、会ったのか? 山城に」

「いや」

「兄貴から聞いただけ?」

「まあ」

「うーん」

「……」

「つーか、よく覚えてたな」

「なにが?」

「いや、おまえの兄ちゃんがさ」

「山城のこと?」

「いや、なんでだよ。おれのことだよ。おれっつーか、おれのズタモンの漫画」

「あー……うん」

「おれ、おまえの兄ちゃんにズタモンの漫画見せたことあったっけ」

「どうだったかな」

「ま、別にいいけどさ。とにかく、わりぃけど山城はねえわ」

「……」

「つーか、買えばいいじゃん。読みたいなら」

「山城が?」

「他に誰が買うんだよ」

「うん……だから、おれもそう言ったんだよ。でも、プレ値ついてて買えねーとかって」

「そうなの? いくら?」

「セットで八万とか言ってたかな」

「八万? え、ちょっ待って。あれ何冊出てんの?」

「二十何巻とか」

「マジ? てことは一冊四千円近くすんの?」

「単品の値段は知らないけど」

「やべーな……」

「うん」

「つーかさ、おまえ会ってんじゃん」

「誰に?」

「山城」

「なんで?」

「いや、さっきからの話、おまえと山城で話してた感じだっただろ」

「……」

「まあ、別にどっちでもいいけど」

「……」

「なに、そんなに仲良くしてんの? 山城と」

「大してそんなじゃないけど」

「あー、じゃあアレだ。おれがズタモンの漫画持ってるつったのも、おまえだ」

「……」

「あいつ今なにやってんの? ヤクザ?」

「知らない」

「大丈夫か? おまえ」

「……」

「ズタモンにハマってるってのも、嘘か?」

「それは……」

「ふーん」

「……」

「はー……まあ、いいけど」

「……」

「結局なんなわけ? プレ値つっても、全巻で八万だろ? わざわざ友達の弟の友達にたかってまで手に入れるほどのもんか?」

「……」

「んー、なんかよくわかんねえな」

「ごめん」

「てか、それ貸したら戻ってくんの?」

「たぶん……」

「山城だろ。ぜってー戻らねえだろ」

「……」

「だいたいおれが持ってるのって、最初の何巻かだけだぞ」

「だよね」

「あー……。大翔、おまえほんと大丈夫か?」

「……」

「なんかめんどくせえ感じになってんの?」

「や、そうじゃないけど」

「つーか山城がねえ……。ズタモンの漫画なんか手に入れてどうすんだろ」

「普通に読むのかも」

「この流れでそれはねえだろ。いや、でもプレ値で買えねーとか言ってたんなら普通に買う気はあんのか? なんかよくわかんねえな。……山城、何がしてえんだ」

「普通に読みたいだけの可能性はない?」

「いや、おまえだよ。一番わかんねえのは。山城から直接聞いたんだろ。なんでそんな曖昧なんだよ」

「……」

「会って聞いたんだろ?」

「まあ……」

「それで、わかんねえの?」

「だから、さっきから言ってるじゃん」

「あ?」

「ただ読みたいだけかも……って言ってるけど」

「いや、だから……。おまえは山城に会ってしゃべってるから麻痺してんのかもしんねえけど、山城って……山城だぞ? おれらと一緒の中学出てるやつはだいたい知ってるぞ? 山城の名前も、どんなやつだったかも」

「……」

「わりぃけど、この話は無しな。どうせおれが持ってんのも数冊だけだし」

「……」

「じゃあな、おれもう行くぞ。おまえも、あんま深入りすんなよ」

「あ、完ちゃん……」

「ん?」

「いや、なんか、ごめん……」

「いいよ。久々話せてよかったよ。じゃ」



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