最後の日本人・タロウの物語

タロウ

岩の召喚士・ルルスラ_岩って食べられるの?

今まで何を食べていたんだ!?


――――――――――――――――――――

死ぬまでに叶えたい夢がある。

だから……

作りてし止まん。

――――――――――――――――――――



異世界を旅する最後の日本人・タロウ。


その日、彼は果てしなく広がる砂漠地帯を一人で歩いていた。


地平線の彼方まで砂と岩が続き、空気は乾き、風は熱を帯びていた。


目的は、現在滞在している国で噂にしか残っていない――


【滅びかけた辺境に残る、召喚士の一族の村の調査】


生存者の有無。

召喚術の継承状況。

そして――脅威になり得る存在かどうか。


それらを確かめ、記録し、報告するのが、今回俺に課された仕事だった。


ただ、見渡す限りあるのは、風に削られた砂と岩だけ。


タロウ:本当に何もないな……


そう呟いた直後だった。


グ〜〜〜〜!!!!


情けない音が腹の奥から響く。

ここ数日、まともな食事は取れず、水袋の中も底が見え始めていた。


タロウ:仕事よりも……メシと水……


弱音混じりに呟きながら、気を紛らわせるように軍歌の「戦友」を鼻歌で歌っていると――


ゴゴゴゴゴゴ!!??


っと、地の底から唸るような振動が伝わり、足元の砂が波打って地面に亀裂が走る。


砂を押しのけて現れたのは、石と土で組み上げられた巨大な影。


――巨大な岩の狼?


???:あなたは誰?


声は、岩の狼の上から聞こえた。

その肩の上に、一人の少女が立っている。

砂漠の陽射しを受けて淡く輝く、赤みがかった髪。


タロウ:助けて……もうしばらく何も食べていないんだぁ……


???:ふ〜ん……じゃ、はい!


彼女の合図に応じるように、岩の狼の大きな口から差し出されたのは――


――ただの岩だった。


???:えっ、岩が食べれないの?


少女は、タロウに向かって満面の笑みを向ける。


砂や岩から召喚されたモノたちと暮らす

――召喚士・ルルスラ



村に人の姿はルルスラしかおらず

代わりに彼女の召喚した岩の獣・ウルファーナ

人の形を成した・ゴーレムたちが住んでいた。


畑仕事、修繕、警備。

どれも完璧にこなす彼らだが――


食事だけは、壊滅的だった。


ルルスラ:タロウは岩を食べないのか?

     野菜と肉を洗う?

     そのまま食べるよ!!

     

――うん!

――俺が料理とは何なのかを教える!


タロウは、あり合わせの野菜と干し肉を鍋に放り込み、即席の「水炊き」を作った。


昆布もなければ、調味料もない。

ただ水で煮ただけの、素朴すぎる料理。


――だが。


茹でるだけで美味しい!!


タロウ:どうだ?

ルルスラ:……おいしい!


足元の岩を削って作った即席のスプーンを口に運んだ瞬間、ルルスラは目を丸くした。

その背後では

岩の狼・ウルファーナとゴーレムたちも鍋を覗き込み

一口食べるや否や、我先にと競うように食べ始める。


その日から、タロウが料理を作り、“岩の子供たち”が隣でつまみ食いをするのが日課になった。


ルルスラ:ねえ、タロウ!

     このままこの村にいてよ


タロウ:まぁ、仕事の期限は、もうすぎているからお金もらえないから

    いいか……な?


ルルスラ:わーい!!


ルルスラは、ぱっと表情を輝かせ

岩の狼・ウルファーナは遠吠えを

ゴーレムたちは胸を叩き、歓迎の音を響かせた。


誰も訪れなくなった村に、今日も湯気の立つ鍋の匂いが広がっていく。


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