魔物になるしかなかった僕達へ捧ぐ物語『メルトリノ黎明譚』

双海慈雨

第1話 「幸か不幸か」

 僕の父さんは昔、ラズリオンっていう魔生物から僕とこの街を守って死んだ。


 それは今から八年前の事で、当時の僕はまだ七歳だった。まだ幼かったのと、父さんが殺される瞬間を目の前で見たせいか、その時のことは正直良く覚えていない。

 

 覚えているのは、困ってる人を見掛けたらすぐに助けてあげる、凄くかっこいい、ヒーローみたいな人だったってこと。そんな父さんが大好きだった。


 将来は父さんみたいになるんだって思ってる。僕の憧れの人。


 僕達が住む星の名前はメルトリノ。


 そしてここは『イシュカ帝国』


 始まりの英雄達が遠い『チキュウ』って星からやってきて造ったと言われている、この惑星でただ一つの人間が暮らす国だ。


 僕はそこの貧民街に今は母さんと二人で暮らしてる。母さんは元々身体が弱くて、父さんが亡くなった日からずっと寝たきりの生活だ。


 きっと心も身体も、沢山ボロボロになってしまったんだと思う。日に日に弱っていく母さんを見る度に、胸が締め付けられて酷く痛むんだ。


 せめて身体だけでも治してあげられたらって思ったけど、医者に見せるための大金なんて、払えるあても無かった。


 大好きな母さんに何もしてあげられない、ただの貧しい無力な少年。それが僕。その事実が本当にもどかしかった。


 そんなある日、1つの吉報が舞い込む。


『補欠合格通知』


 それはとある組織に入隊するための一次試験突破の知らせだった。


 その組織の名前は『帝国機動隊』このイシュカで一番有名な組織。狭き門だけど、その代わり破格の給料が約束されてる、そんなところ。


 任務は主にイシュカの外に広がる世界の調査。調査するだけなんて、一見簡単そうに思えるかも知れないけれど、現実はそんなに甘くはない。


 イシュカの外はとても危険で、僕の父さんを殺した『ラズリオン』みたいな魔物達が、山のように溢れかえっている。彼らはそんな怪物達と毎日戦っているんだ。


 魔物が使う未知の力は『魔法』って言って、あれは本当に厄介だし危ない。


 メルトリノに国が1つしか無いのも、父さんが亡くなったのも、全部全部アイツらのせい。


 それでも僕は、絶対に帝国機動隊に入りたかった。母さんと共に生きるために沢山のお金が必要だったから。


 試験を受けるって話した時、母さんには泣きながら必死に反対されたけれど、でもこれだけは譲れなかった。だから必死に頼み込んで、最後には母さんが根負けしたんだ。


 それともう一つ、外界でラズリオンを見つけだし父さんの仇をとること。これも大切な目標だ。僕達家族の幸せを奪ったアイツだけは、絶対に許さない。この手で終わらせてやる。


 この願望達を叶えるためには絶対に帝国機動隊にならなきゃいけない。


 そのために僕は今日『帝国機動隊の本部』に来た。


 101番目の合格者。たった一人の、補欠合格者として、最終試験に挑むために!

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