44.魔道具協会(1)
それから私たちは取引に応じなかった領や商会以外を手当たり次第に当たることになった。だけど、このことを察知した人達が他にもいた。
領都フォリンダの魔道具協会だ。
魔鉄と魔石の生産が始まり魔道具生産が始められそうとなった今、取引先がなくなる事態に阿鼻叫喚となった。混乱した魔道具協会はすぐに私に連絡をしてきた。
現状についての説明を、と。流石に今の状態で放置する事も出来ず、私は魔道具協会との話し合いの場を設けた。
領都フォリンダにある魔道具協会の建物の中にある会議室、そこに私とゼナ、ハイド、ガイが参加した。
会議室は始まる前から重苦しい空気が漂っており、簡単に口を開けるような雰囲気ではない。そんな中、魔道具協会の協会長が口を開いた。
「レティシア殿、まずはお越しいただき感謝いたします」
重々しい声が響いた。白髪交じりの協会長。深く頭を下げながら言葉を続けた。
「……魔鉄と魔石の生産の確立という吉報、誠に喜ばしいことです。しかし、その成果が――取引拒否によって宙に浮いた、ということですね」
「本来であれば、私ども魔道具協会としては魔道具生産が本格化する、ところでした。だが、各商会に何者かからの圧力がかかり、取引拒否が相次ぎました」
「ええ、それはこちらも把握しています。取引先の大半は封じられました。あの者の手回しの早さには脱帽です」
私は皮肉混じりに微笑んだ。協会長は苦笑いしながらも、すぐに真剣な表情に戻る。
「ですが、それでは困ります。領主様はこの事態をどうやって治めるのですか?」
「今、取引がなかった領に取引を持ちかけてます。それで、まず話し合いを重ねて……」
「そんな悠長な事を言っている場合ですか! もう、我々は我慢の限界に来ているのです!」
協会長が私の言葉を遮り、声を大きくして訴えかけてきた。
「前の代官からは、生産コストが上がったから魔鉄と魔石を高く売りつけられました。でも実のところ、作れなくなっていて他から買い入れた物だったではありませんか。しかも、生産コストが上がったのに、魔道具の売値は上げるなと……横暴な事を言ってきたんです!」
「そんなことが……」
「職人たちには無理やり作らされた負債が残っているんです。長年抱えた負債はとても重く圧し掛かってきます。これ以上の重圧に彼らは耐え切れません」
まさか、ここでも秘密裏に取引していた他領からの負債があるとは思わなかった。高く買い入れた材料は職人に高く買うように強要した。それだけじゃなく、不正を隠すために魔道具の売値まで……。
「早く魔道具を生産して、早く売らなければ、職人は死んでしまいます! だから、悠長に新規開拓をしている場合ではないのです!」
「時間がない事は分かったわ。今すぐにでも魔道具の生産を始めて、売らなければならないということね」
「ですが、以前取引があったところは……。この事態、どうやって解決に導くのですか!?」
協会長の切羽詰まった思いが伝わってきた。きっと、職人たちはこれよりも辛い思いをしているに違いない。それを救うには即行性のある行動をしなければならない。
だが、即行性のある行動とは? 取引を中止された中、魔道具の売り先を考えると新規開拓がいいと思っていた。だけど、それには時間がかかる。そんな事をしている間に、職人たちは離れて行ってしまうかもしれない。
何かいい手立ては……。考えていると、叡智が話しかけてきた。
『即行性のある手段ならあります』
「えっ、どんなこと?」
『魔道具展示即売会を開きましょう。取引を封じられたのは、領や商会です。行商人向けの即売会を開くと、物が売れます』
「行商人向けの魔道具展示即売会……。いい案だわ!」
物を売るには領や商会を通さなければいけない。継母はそれを見越して、手当たり次第に制約をしたのだろう。だけど、全ての商会に手を付けられてはいない。その穴が行商人だった。
それに行商人を仲介業者のように使えば、以前取引があった所でも物を売ることが出来る。これは、大きな抜け道だ。
「聞いて! 我が領で行商人向けの魔道具展示即売会を開くのよ。そうすれば、領や商会を通さなくても商品が売れるわ!」
「行商人向け……その手がありましたか!」
私の話を聞いた協会長は一瞬で抜け道を思いつき、手を叩いた。
「行商人を使えば、商品が売れる! その手はとても良いと思います。あとは、どれだけの行商人を集められるか……」
「そうね……。行商人を引き付ける何か目玉となる商品があればいいのだけれど」
「……ですね。既存品の魔道具ではインパクトに欠けます」
「じゃあ、みんなで協力して新しい魔道具を作りましょう!」
そう、全く新しい魔道具を作れば行商人たちがこぞって集まってくれるはず! でも、新しい魔道具ってどんなものを作ればいいのかしら?
「ねぇ、叡智。新しい魔道具ってどんなものがある?」
『でしたら、良い素材があります。鉱山で見かけた石の事を思い出してください』
「青い透明な石、だったわね。確か、触れた物を少し軽くさせる力があるっていう」
『あの石はそれ以上の可能性があります。物を軽くさせるどころか、物を浮かせる力があるでしょう。その力を利用して、浮く魔道具を作るのです』
浮く魔道具? 確かにそんな魔道具は見たことがない。だったら、これは目玉商品になる!
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