いずれ魔王と呼ばれる天使を養子に迎えたので、全力で愛でることにしました。邪魔するものは容赦しませんよ?
南 コウ@『スター☆トレイン』発売
第1話 魔王が現れた
どうやらこの世界には、天使が存在するらしい。目の前に佇む銀髪の美少年を見て、私はそう確信した。
「はじめまして、メルヴィスです。本日からお世話になります」
この子は、今日からバイロン家の養子として迎えることになったメルヴィス。夫であるセオドアの遠縁の親戚で、あちこちの屋敷をたらいまわしにされた結果、我が家で引き取ることになったと聞いている。
養子を迎えることには承諾したけど、まさかこんなに愛らしい少年だったなんて……。事前に聞かされていたのは、彼が5歳であることと、氷属性の魔力持ちであることだけ。顔を見るのも、名前を聞いたのも、今日が初めてだった。
お辞儀をしていたメルヴィスがゆっくりと顔を上げると、潤んだ蒼い瞳に見つめられる。その瞬間、私はズキュンと胸を射抜かれた。
(かっ……かわいいっ!!!!!! 天使!! まさに天使だわ!!)
透き通るような白い肌に、人形のような長い睫毛、ほんのり上気した頬はぷっくりと膨らんでいた。
こんなに愛らしい天使を養子に迎えられるなんて夢のようだ。私は床にしゃがんで、愛想よく微笑みかけた。
「私はバイロン伯爵家の夫人、アンジェリカよ。よろしくね」
握手をしようとメルヴィスの手に触れると、氷のように冷たくなっていることに気付く。緊張しすぎて冷たくなってしまったのかしら。可哀そうに。
冷たくなった手を温めるように両手で包み込むと、メルヴィスは「ひぃっ!」と悲鳴をあげる。その直後、私の手が氷漬けになった。
「わああああ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさ~い!」
メルヴィスは真っ青な顔で、何度も頭を下げる。パニックになったせいか、さらに冷気を放出して、玄関ホールに吊るされていたシャンデリアを凍らせた。
「きゃあああ! 奥さま、大丈夫ですか!?」
メイドのリディアが慌てて駆け寄ってくる。私は張り付いた笑顔を浮かべながら、床に倒れ込んだ。
これが、いずれ魔王と呼ばれるメルヴィスとの出会いだった――
◇
「……メルヴィスって『ファイヤー・レジェンド』のラスボスじゃない!?」
目を覚ますと、見慣れた天蓋付きベッドが視界に飛び込んだ。
両手を確認すると、氷漬けにされていた手は解凍されていて、問題なく動かすことができた。どうやら意識を失っている間に、火魔法で解凍したらしい。
私はキリキリと痛む頭を抑えながら、記憶を整理した。
私、アンジェリカは子爵令嬢として生まれ、一年前にバイロン伯爵家に嫁いできた。二十四歳と世間から見れば遅い結婚だった。
婚期が遅れたのは、私が魔力持ちであることが影響している。
我が国――エルトロイナでは、国民の5%ほどが魔力を宿している。魔力持ちの男は、あらゆる特権を与えられる一方、魔力持ちの女は「魔女」として忌み嫌われていた。
火魔法を扱える私も「猛火の魔女」なんて異名を付けられて、周囲から恐れられていた。ウェーブがかった赤髪に、気の強そうなつり目も、人を遠ざける要因となっているのだと思う。
結婚は諦めていたものの、バイロン伯爵家の若き当主、セオドアがアンジェリカを妻に迎えても構わないと言い出した。ありがたい申し出ではあったが、実態としては形だけの結婚だ。
『俺は、あんたを愛するつもりはない。研究の邪魔をしないと約束できるなら、屋敷に置いてやってもいい』
セオドアと初めて会った日に、紫色の冷ややか瞳でそう告げられた。黒髪短髪の美麗な男だったが、不愛想で何を考えているのか分からなかった。
セオドアの非礼な態度に腹立ちはしたものの、反論はしなかった。こちらだって愛なんて求めていない。堂々と身を置ける場所ができるならと、バイロン家に嫁ぐことにした。
以来、私はバイロン家の夫人として屋敷を守りつつ、研究と称して屋敷を留守にしているセオドアに変わって領地経営代理を行なっていた。
ちなみにセオドアが何の研究をしているのかは、よく分からない。正直、興味もない。
……と、ここまでがアンジェリカの記憶だ。メルヴィスに氷漬けにされたことで、それ以前の記憶も蘇った。
「私、ゲーム好きの限界社畜OLだった」
前世では来る日も来る日も終電間際まで働き、休みの日には家にこもってゲームに没頭していた。最後にプレイのは、『ファイヤー・レジェンド』というレトロゲームだ。
魔王メルヴィスに支配された世界を、勇者ユリエルとその仲間たちが救うという王道ストーリーだ。
美麗なCGが付いた最新ゲームも良いけど、ドット絵のレトロゲームも想像力をかき立てられるから結構好きだった。……なんて感想は今はどうでもよくて!
たしか私は、魔王メルヴィスを倒そうと奮闘していた。メルヴィスは強くて強くて何回やっても倒せなかった。レビューサイトでは、ゲームバランスがイカれていると酷評されていたほどだ。
それでもエンディング見たさに寝る間も惜しんでプレイしたが、最終的には私の方が倒れた。きっと向こうの世界では、過労死で処理されていると思う。
思い返してみれば、エルトロイナという国名も『ファイヤー・レジェンド』の舞台と一致している。
ということは、本当にゲームの世界に転生したんだ。
◇◇◇
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