第23話 20年ぶりの再会

 カースはこちらに気づいていないようで、怯えたような瞳を向けている。

 すっかり変わってしまった相手に、俺はフッと鼻で笑ってしまう。


「ヴィオラの父親ということは、お主の言っていたあやつか」

「ああ」

「?」


 俺を警戒し、ヴィオラとこちらを近づけさせないよう、彼女の前に立つカース。

 そして徐々に距離を取り、この場から離れようとしているのが分かった。


「行くぞ、ヴィオラ」

「ちょっとお父さん……」


 しかし思いのほかヴィオラが抵抗をみせ、動くことが出来ない。

 困惑しつつも、俺に対する恐怖心を強くしたのか、カースは焦り始める。


「いいから行くぞ!」

「その前に話を聞いて!」

「おい、何をしてるんだ……って、ヴィオラ!」


 騒ぎを聞きつけたのだろう、カースの知り合いらしき人たちが遠くからやって来る。

 その連中には見覚えがあった。

 年は取ってはいるが、あの村に住んでいた者たちばかりだ。

 中にはブーナの父親であるジルバもいた。


「お爺ちゃんに皆! 何で皆こんなところにいるの? 旅行?」

「旅行だったらどれだけ良かったか……しかし、ヴィオラと再会できたのは喜ばしいことだ」

「え、何かあったの?」


 ジルバの意味深な言葉に、ヴィオラは眉を顰めながらそんなことを聞く。

 カースとジルバを含めた村人全員が俯き、その深刻さを物語っていた。


「実はな、村が燃やされたんだよ。モンスターが現れて、全部燃えた」

「全部って……家も畑も!?」

「ああ。お母さんは別の方に逃げてな、今はどこにいるか分からないんだ」

「そんな……」


 まさかバルーナの村が燃やされたとは。

 しかし驚きもしないし心も動かない。

 まるで異国の地の悲劇を聞いているような気分だ。

 自分には関係の無い出来事。

 そうとしか感じられない。


 茫然とするヴィオラは、口を開けたままこちらの方を見てくる。

 

「ロウさん……どうしよう。村が燃えちゃったって」

「……ロウ?」


 カース、それにジルバたちの視線が集まる。

 怪訝そうな瞳は、徐々に驚きのものに変化していく。


「ロウ……お前、あのロウなのか!?」

「ああ、久しぶりだな。カース」

「貴様……こんなところで何をしている?」


 カース以外の表情は怒りのものになり、俺を睨みつけてきた。

 俺は嘆息し、さっさとこの場を離れることを決める。

 こいつらと昔話に花を咲かせるつもりも無いし、相手にするだけ時間の無駄だ。


「あんたたちには関係無い。俺に構わないでくれ」

「じゃあギルドに向かうとするか。眼鏡娘が待っておるじゃろうしな」

「ああ。その後は昼飯だな。今日は何にしようか」


 レイナとそんな会話をしながら歩き出す。

 カースたちも俺と話すことは無いと判断したのか、無言でこちらを見据えていた。


「『ドラゴンキラー』、また助けてね!」

「お礼がしたいから、いつでもうちの店によっておくれ」

「あんたほど強い人がいたら心強い。この町に住んでくれてもいんだぜ」


 俺に向かって、町の人たちがそんなことを言ってくる。

 困ったことがあれば助けてあげるつもりだが、町に住むことはないだろう。 

 俺がそう思案し、そのまま歩いて行こうとしたのだが……突然背後から呼び止められる。


「待てよ! お前、『ドラゴンキラー』って……噂になってるやつだよな。だったら、俺らの村を助けてくれ!」


 カースの必死な声。

 だが俺は振り向き、冷たく言い放つ。


「嫌だね」

「い、嫌だと……何でなんだよ!」

「何でって、お前が一番分かってるだろ」

「うっ……」


 自分がしたことに身に覚えがありすぎるのだろう、カースは言い淀んでしまう。

 するとヴィオラが、村人たちの俺に対する態度が気になったようで、祖父であるジルバに声をかける。


「皆、ロウさんのことなんで睨んでるの?」

「それは当然だろう。なぜならロウは、お前の母親を襲おうとしたからな」

「……え?」

「性犯罪者なのだ、ロウは」


 ザワつく周囲。

 町の人たちが困惑しているようだ。

 少しばかり有名人である俺の聞きたくない話。

 目を背けて、軽蔑するような視線を向けてくる者もいる。


「……信じない、私。信じないよ、そんな話」

「お前がロウとどんな関係かは知らんが、事実だ。やつはブーナの元婚約者で、そしてあいつを襲おうとした。だから俺たちはこいつを村から追い出したのだ」

「お母さんの元婚約者って……嘘ですよね、ロウさん?」

「……本当だ。俺とブーナは結婚をする予定だった。追い出されたって話も本当だ」


 ジルバたちと言い合いをするのも面倒なので、否定する必要の無い部分だけをヴィオラに伝える。

 婚約していたことと追い出されたこと。

 これだけは事実だからな。


「そういうことだから、君は俺と一緒にいない方がいい。カースたちと幸せに暮らすんだ」

「ロウさん……」


 ヴィオラは俺といるより、家族といた方が良いに決まっている。

 他人よりも家族と暮らす方が正しい。

 カースたちは困っているようだし、彼女みたいな明るい子が近くにいてくれた方が、穏やかにいられるはずだ。


「話はまだ終わっていない。ロウ、お前は強いらしいな」

「どうだろうな。でもあんたたちに村を追い出されてから、ずっと強くなるために行動していた」

「なら、俺達の村を救うんだ」

「はぁ? 何を言っとるんじゃ貴様は」

 

 ジルバの言葉に、レイナの瞳に怒りが灯る。

 今にも襲いかかりそうな、そんな雰囲気だ。

 頼むから堪えてくれ。

 レイナが暴れたら、町一つが消し飛ぶ可能性がある。


「何故ロウが貴様らの村を救わないといけぬのじゃ!」

「なんだこの娘は……ロウは間違いを犯した。その贖罪をさせてやると言っているんだ。村にはまだモンスターがいる。それを倒したら、あの頃のことは許してやろう」

「必要無い。許してもらわなくていいから」

「貴様……20年経って、少しは反省していると思ったが、何だその態度は!」

「20年経っても、あんたは変わらないみたいだな」


 事実を知らず、思い込んだままに怒鳴り付ける。

 あの頃のままだ、ジルバは。


「ロウさん、私たちの村を助けてくれないんですか?」

「助けない。俺には関係無いから」

「……私、何となく分かります。ロウさん、お母さんに酷いことしてませんよね?」

「…………」

「ロウさんは無条件で人を助けてくてる優しい人。アントンもリンも、それに私にだって手助けしてくれて……この町だってロウさんに救われた」


 何かを確信したようなヴィオラの表情。

 曇り一つの無い真っ直ぐな瞳。

 あの時、彼女がいてくれたら……俺は不覚にもそんなことを考えてしまう。


「そんなロウさんが助けてくれないってことは……村の人たちに酷いことをされた。だから助けたくない。そうじゃないですか? 間違いは無かったってことじゃないですか?」

「酷いことをしたのは当然だ。さっき言った通り、こいつは悪いことをしたから――」

「お爺ちゃんには聞いてない。私はロウさんに聞いてるの。答えてください」


 思っていた以上に芯の強い女性みたいだ。

 自分が信じることは信じ切ろうという意思を感じる。

 この子は俺がいなくても、強くなれるだろう。


 だが俺はこうも感じてしまう。

 彼女にはもう少し傍にいてほしい。

 これだけ素晴らしい女性とはまだ付き合いをしたいと。

 恋愛とかそういうのじゃないけど、心に光を宿す人間とは関係を続けたい。


 だから俺は嘆息し、ジルバに向かって言う。


「あんたらの村、助けてやろうか?」

「何を偉そうに……助けるのは当然だろ!」

「当然か……まぁいい。助けてやってもいいが、条件が一つだけある」

「条件? まさか村に戻りたいなんて言うんじゃないだろうな」

「まさか。今更あそこに戻りたいなんて微塵も思っていないさ」


 俺は睨むようにしてカースの方を見る。

 すると奴はビクッとし、困惑する表情で俺を見返した。


「カース、あの時の真実を話せ。それで手を打ってやる」

「うっ……」


 顔面蒼白となるカース。

 村のために真実を話すのかどうか、これは見ものだな。

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