第3話 ゼロテイルの町

 歩き始めて2時間、ようやく森を抜けることができた。

 森を出たら遠くの方に川が流れているのが見え、さらに遥か遠くに町が見える。

 結構な大きさの町だ。

 バルーナの村とは比べものにならないな。


「あれは何という町じゃ?」

「さぁ。俺よりレイナの方が詳しいだろ」

「ワシは全然知らんぞ。自分の城と、敷地以外のことは無知じゃ」

「へー。そうなんだ」

「うむ。ちなみにだが、ワシの敷地へと入ることはできない。結界が張られているからの」


 結界か……ん?

 でもそれならなんで俺はあの場所に辿りつくことができたんだ?

 俺は疑問に思い、レイナに聞くことにした。


「なあレイナ。俺は――」

「あの頃は結界を張っておらなんだ。ぐうたらしていた時期じゃから、結界を忘れておったんじゃ」

「なるほど。レイナと出会えたのは、色んな偶然が重なり合ってたんだな」

「人、それを運命と呼ぶ」


 確かに、運命めいたものは感じる。

 レイナにそんなことを言われ、胸が少しだけ熱くなるのを感じるが、しかし彼女の体勢に呆れの方が勝ってしまう。


「いつまでおんぶさせるつもりだ?」

「まだいいではないか。ロウが疲れたならすぐに降りる。それとももう疲れたか?」

「まさか。まだまだ」


 軽いレイナをおんぶすることに苦痛は感じない。

 まるで羽を背負っているような感覚で、むしろ軽すぎて背負っていることも忘れてしまうほどだ。

 いつの間にか、俺の腕力も上がっていたということだろう。

 20年前と比べると、考えられないほどの成長だ。


 レイナを背負ったまま草原の中を歩く。

 川を渡り、さらに道を行き、ようやく町への到着を果たす。


「おお……遠くから見るより、ずっと大きいな」

「ああ。俺は自分が住んでいた村しか知らなかったけど……こんな大きなところがあるんだな」


 円状の壁に囲まれた町。

 中央には大きな建物が見える。

 活気ある町で、商店が多く建ち並んでおり、町に入るといい香りが漂って

きた。

 地味な服の人に豪勢な服を着ている人、それに騎士。

 他には戦士のような恰好をしている者も数多くおり、色んな人々がいることに俺は驚いてしまう。


 バルーナの村では普通の人ばかりで、戦いとは無縁ののどかな村だった。

 それと比べると、戦いに慣れているような人も多く見られ、危険もあるのだろうと推測できる。

 

 ようやく俺の背中から降りたレイナは、俺と共に感嘆の声を上げていた。


「すまぬ。この町の名前を教えてはくれまいか?」

「変わった喋り方をするお嬢ちゃんだな……ここはゼロテイル。冒険者が最も多く集まると言われている町さ」

「冒険者か……ロウは知っておるか?」

「村で困りごとがあった時に助けてもらったことがあるからな。便利屋というか、何でも屋と言うか……とにかく、困った人を助けるいい職業だ」

「そんな良いもんかね、冒険者は」


 レイナが話しかけたおじさんは、肩を竦め顔をしかめていた。

 あまり良い印象を持っていないようだ、冒険者に対して。

 俺たちは助けられたから、悪い印象は抱いていないのだけれど。


「とにかく、ここは冒険者が多い。そして世界で一番、冒険者同士のトラブルも多いと言われている。ま、バカみたいに人がいるから仕方ないことなんだろうけどな」

「すまぬな、わざわざありがとう。感謝する」

「本当に変わったお嬢ちゃんだ。人が多いから、迷子にならないように、お父さんから離れるなよ」

「お、お父さん!?」


 笑いながら去って行くおじさん。

 レイナは彼から言われたことに驚愕したのか、唖然としたまま固まっていた。


「どうしたんだ、レイナ」

「ロウがワシの父親だと言っておったぞ」

「傍から見れば、そう見えるのかもな」

「ぐぬぬ……恋人同士には見えんということか!」

「見えないだろうな。大人と子供だし。それに実際恋人同士じゃないんだから、そんなに怒らなくてもいいだろ」


 俺はそう言うが、レイナはまだ悔しそうな表情をしている。

 さっきの人が言ったことじゃないけど、レイナって面白いよな。


「それで、どこに行きたい?」

「うーん……分からん!」

「だな。俺もどうすればいいのか分からないよ。でもまずはお金が必要だよな……俺たち無一文だし、どこかで金を調達しないと」

「では金のために情報を調達するとするか」


 レイナは他人に対して平気で声をかけることができるようで、お金の稼ぎ方を通りかかる人たちに聞く。

 少しばかり人間不信になっている俺からすれば、凄いことだと思う。

 彼女の尊敬できるところの一つだ。


「なるほど、どうやら『冒険者ギルド』とやらに行くといいみたいじゃの」

「そこで冒険者になったら、素材を買い取ってくれるんだな。素材は結構あるから、わざわざ仕事をする必要はなさそうだ」


 情報を収集した結果、冒険者になって素材を買い取ってもらうことでお金を稼げることが分かった。

 今持っている素材だけでも、それなりの金額になるはずだ。


 そう考えた俺たちは、冒険者ギルドを目指すことに。

 ギルドは町の中央の大きな建物らしく、目立つので迷うこともなさそうだ。

 俺たちは商店を眺めながら、ギルドを目指す。


 ギルドに到着したのは30分後。

 塔のように高い建物。

 入り口は大きな門になっており、大勢の人が行き来している。


「ほう、ここが冒険者ギルドか」

「人が多いな」


 中に入ると10人ほどの受付がおり、その全てに長い列ができていた。

 俺たちは適当な列を選び、他の人たちと同じように並ぶことに。

 順番待ちの間、レイナは寝てしまい、俺は彼女をおんぶしながら自分の順番を待った。


 結構な時間を待ち、ようやく俺は受付をしてもらることに。


「本日はどういったご用件で?」

「えっと、冒険者になりたいんです。素材の買取をしてもらいたくて」

「分かりました。お子様もいらっしゃって大変ですね」


 クスッと笑いながら、受付の女性は対応をしてくれる。

 青髪でポニーテールを作り、眼鏡をかけた美人。

 彼女は書類を取り出し、記入するように指示をする。

 俺はそれに従い、書類を記入していく。


「お名前はロウさんですか……私はルイです。よろしくお願いします」

「はぁ」

「こちらが冒険者の証となる、冒険者カードです」


 手渡されたのは手の中に納まる程度のカード。

 自分の名前が記載されており、これこそが冒険者である証拠となるようだ。


「それで、素材というのは? 見たところ、何も持っていないようですが」

「ああ、少し待ってください。レイナ、起きてくれ」

「うーん、後8時間……」

「だから寝すぎだって! 順番が回って来たから」

「うーん……」


 俺の背中からおり、立ったまま寝るレイナ。

 器用なものだな、と考えながら俺は【アイテムボックス】を開く。


「え? 何ですかそれは」

「スキルですけど。おかしいですか?」

「あ、はい……見たこともない能力ですので」

「そうですか」


 俺の【アイテムボックス】の歪みに驚くルイさん。

 そんな彼女を一瞥し、俺は中から素材を出すことに。


「わっ、確かに素材ですね」


 テーブルの上に【アイテムボックス】から直接素材を落とす。

 驚くルイさん。


「おおお……」


 手から砂を落とすように、歪みの中から次々に素材が漏れていく。


「……ええ?」


 素材が積み上がり、山のようになる。

 ルイさんの顔は驚愕のものになるが、俺はまだまだテーブルの上に落としていく。


「いやいやいやいや……どれだけあるんですか!?」


 とうとうルイさんの表情は真っ青となり、驚きを超えて恐怖まで覚えているようだった。


「え、まだこれの100倍以上は優にありますけど」

「そ、それは多すぎです……今回はこれだけで勘弁してください!」


 気が付くと周囲も驚きの声で溢れていることに気づく。

 視線が集まり、茫然としている。

 素材を出しただけなのに、そんなに驚くことか!?

 と、この状況に俺が吃驚していたのだが、レイナは目を覚ますことはない。

 そのことに俺は一番、驚愕を覚えるのであった。

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