幼馴染に婚約者を奪われた男、裏切られてから裏ボスの裏庭で20年生活している間に最強になっていた~おっさんになってからスローライフを始めたら美女たちに求愛された。だが元婚約者、お前はダメだ~
大田 明
第1話 裏切り
「真面目だねぇ、ロウは」
「それぐらいしか取り柄がないから」
老婆と会話を交わす俺。
俺が住んでいるのはバルーナの村。
小さな家屋に優しい川が流れていて、何も無い平凡な田舎村だ。
俺は老婆の手伝いをして、そのお礼に果物を貰った。
「ブーナ、喜んでくれるかな」
果物を手にし、俺は笑みを浮かべる。
ブーナとは俺の婚約者。
親同士が決めた結婚相手なのだが、来月に結婚予定だ。
俺たちはまだ16歳だが、周りの人間も大抵が16ぐらいで結婚しているので、普通なのだろう。
早くブーナと幸せになりたい。
彼女のことを想いながら、俺は家路に付いた。
俺が住んでいるのは村の端の方だ。
すでに両親は他界しており、現在は俺一人が住んでいる。
近い将来、ここでブーナと暮らすことになるんだな。
彼女は俺の家で待ってくれているはず。
ブーナとの将来を想像しながら、胸をときめかせて扉を開けた。
「えっ――」
扉を開けると、そこにはキスをするブーナと、幼馴染のカースがいた。
茶髪を後ろで束ね、大きなブラウンの瞳。
胸が大きく、背は平均的か。
美人と呼ぶにふさわしい彼女こそが婚約者のブーナである。
そして彼女とキスをしていた金髪の美男子。
彼は幼馴染のカースで、俺の顔を見るなり少し気まずそうな表情をした。
「な、なんでこんなに早いの……?」
「そんなことより、何をしてるんだ、二人は?」
「……バレちまったら仕方ない。俺たち、こういう関係なんだ」
開き直るカース。
今度はニヤニヤしながら、ブーナの肩を抱く。
ブーナも何やら決心したような表情をすると、彼と同じように笑い出した。
「ごめんねロウ。私、あなたとは結婚できない」
「ブーナは俺のことが好きなんだとさ。残念だけど、選ばれたのはお前じゃなくて俺だ」
「い、いつからそんな関係に?」
「そうだな……先月あたりからかな。ブーナ、最近悩んでたの気づいてなかっただろ」
彼女の変化……そんなものに気づかなかった。
ブーナをずっと見てきたはずなのに、何も気づかなかったのか。
俺は情けなさと、そして怒りで頭が真っ白になる。
「もう結婚するって話はまとまっているんだ。村の誰もが納得しないよ」
「納得できるだけの材料があれば問題無いだろ?」
「そういうこと。材料が無ければ作ればいいだけの話だしね」
「ま、ブーナのことは諦めてくれ。彼女は俺が幸せにするからさ」
俺の肩に手を置いて大笑いするカース。
そして二人は、俺の家から出て行ってしまった。
「くそ……くそ……なんでこんなことになっているんだ」
膝から崩れ落ち、俺は床を拳で叩きつける。
拳の痛みが、現実だと伝えてくれているようで、悲しみが一気に押し寄せてきた。
「くそ……くそ……」
その場から動けず、一睡もすることができず、翌日の朝になってようやく俺は立つことができた。
思考回路が途切れてしまったように頭が動かない。
何も考えたくないし、このまま死んでしまいたいほどに生きているのが辛かった。
「おい、ロウ!」
「どういうことなの!?」
ブーナの両親が俺の家に怒鳴り込んでくる。
その後ろにはブーナとカースの姿が。
さらには村中の人々が集まっているようだった。
「どういうことって、こっちが聞きたいよ」
「ふざけているのか……ふざけるな!」
ブーナの父親に殴られる。
鈍い痛みに俺は唖然とした。
「えっ……」
「二人から話は聞いた! 先日、強引に関係を持とうとしたらしいな?」
「強引に関係を? 何の話……」
「とぼけるな! ブーナの首元……あれはお前がナイフで傷つけたらしいじゃないか!」
ブーナの首には包帯が巻かれている。
俺がナイフで……そうか、俺を貶めようとしているのか。
材料が無ければ作ればいい……こういう意味だとは。
「違う……俺の話を聞いてくれ! 二人は――」
「俺が助けたんだよ! ブーナは結婚するまではそういうことをしたくないって。でもロウが興奮していて……俺だってナイフで腕を斬られたんだ」
ニヤッと口元を歪ませるカース。
彼の左腕にも包帯がある。
怒りよりも焦燥が胸を支配し、この後のことを想像すると身震いが止まらない。
「怪我をしているというなら、包帯の内側を見せてみろ! 俺はやっていない。怪我なんてさせてないんだ!」
「往生際の悪い……怪我をしているから包帯を巻いているのだろ!」
怒るブーナの父親。
カースとブーナは俺から視線を逸らしていた。
包帯を外させることができたら、俺の無実を証明できるはず。
俺はそう考え、さらに追及することに。
「ブーナ、カース。俺がやったというならその包帯を取ってみろ。嘘をついていないならできるはずだ!」
「それは……」
俺の必死の形相を見て、皆も何かを思ったのか、二人の方に視線を向ける。
二人は気まずそうに俯いてしまう。
「見せなくてもいいだろ? 怪我をしているのは本当なのだから」
「そうよ。この包帯自体が証拠なのよ」
「包帯なんて撒けばいいだけの話だろ。俺を貶めるために、卑怯だぞ!」
ブーナの父親は嘆息し、二人に向かって口を開く。
「ブーナ、カース。包帯を取りなさい。それでロウの悪事を暴けるのだから」
「…………」
俯いたまま何もしようとしない二人。
俺は安堵していた。
このままなら、俺の無実を証明できると。
「……分かったわ」
観念したのか二人は包帯を外し始める。
俺は拳を握り、二人の嘘を跳ね返せたことに歓喜を覚えていた。
だが、俺の考えは浅かったのだ。
「なっ……」
「怪我なんて見せたくなかったのだけれど……でも私たちが言っていることを証明するためには仕方ないわね」
ブーナの首元、そしてカースの腕には確かな傷跡があった。
ナイフで切られたような、細い線。
外した包帯には少し血が滲んでおり、二人の言葉が真実だと
「じ、自分たちで傷つけたんだろ!」
「ふざけるな! 自分の罪を……ブーナを傷つけたことを誤魔化しやがって。俺はお前を許さない。絶対に許さないぞ!」
カースの叫びに、村中の人たちが一斉に声を上げる。
「親のいないお前を、ずっと見守ってきてあげたのに!」
「真面目な子だと思っていたのに、とんでもない悪魔だよ!」
「女の敵! 今すぐにここから出ていけ!」
全員から「出ていけ」のコール。
頭がグワングワンする。
これは現実なのか。
俺はまだ悪い夢でも見ているんじゃないのか?
悪意に満ちた皆の声。
いや、あるいは善意なのかもしれない。
ブーナとカースを守るための、正義の声。
悪である俺を断罪せんとする、正しき叫びだ。
「…………」
俺はフラフラの足取りで家を出る。
「残念。材料はしっかり仕込んであったんだな、これが」
「…………」
皆に聞こえないようにカースが俺の耳元でそうささやく。
俺は怒りに震え、彼に飛び掛かろうとする。
しかし、その動きを察していたブーナの父親が、俺を殴りつけてきた。
「貴様、カースに何をしようとしている!」
「こいつ、ふざけんなよ!」
男たちに囲まれ、四方八方から俺は蹴り回される。
痛い。
痛い。
痛い。
でも暴力は止まらない。
俺は抵抗する気力さえも失い、だまって彼らの行為を受け止めていた。
やがてそれは終わり、四人の男性が俺を抱えて村の外まで運ぶ。
「殺したくはないからな。でもとっととくたばれ!」
俺を放り投げ、去って行く男たち。
村の中から楽し気な声が聞こえてくる。
俺は立ち上がり、村の方を見ることなくその場を立ち去った。
それから一時間ほど歩いただろうか。
どこを歩いたのかも覚えていない。
ただ前へ前へ足を進め、目的地もなく彷徨っていた。
「う……うううっ」
ようやく自我が戻ったかのようにして、心に痛みが走る。
俺は裏切られ、騙され、村を追い出されたんだ。
悔しい……悔しいけど何もできなかった。
自分の不甲斐なさと、そして心の痛みに涙を流す。
「うわぁあああああああああああああああああああああ!!」
それからどれだけ叫んだだろう。
時間の感覚が狂い、泣き止んでからまた歩き出す。
俺はどこへ向かうのだろう。
心だけではなく全身、そして足が痛い。
でも村からできるだけ離れたくて、無心に俺は歩き続けていた。
歩いて歩いて歩いて。
気が付けば全く知らない場所に来ていた。
森の中のようだが、あまりにも禍々しい空気が流れており、周囲には危険そうなモンスターがウジャウジャいる。
「…………」
なんでこんな所に来てしまったのだろう。
だが何も感じない。
自分の心が死んでしまったような感覚。
もうどうなってもいいや。
俺はすでに死を受け入れていた。
「グゥウウウウウウウウウ!!」
見たこともない巨大なモンスターに取り囲まれる俺。
大地に腰を下ろし、目を閉じる。
どうせ生きていても良いことなんて何一つとして無い。
俺は最悪なままで死んでいくんだ。
「……?」
死を覚悟したというのに、その瞬間がいつまで経っても訪れない。
俺は目を開け、周りにいたはずのモンスターを視認する。
「お主、何故こんなところにいるのじゃ?」
声の主は長い黒髪で、まだ子供と言っていいほど幼い。
黒いドレスに赤い瞳。
子供のはずなのだが、目を離せないほどに美しい。
俺は彼女に釘付けになっていて、周りにモンスターの死骸が転がっていることには気づかなかった。
これが俺と彼女――レイナとの出会い。
俺の運命を大きく変える出会い、いや、この出会いこそが定められた運命だったのだろうか……
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