第39話 災厄②
真っ先に思い浮かんだのは“逃げ”だった。
だけど推定とはいえ奈落級相手に背を向けるのは危険すぎるし、コイツを野放しにした時の被害がどうなるか···想像もしたくない。
だからこの案は棄却して迎撃を選択。
ミオちゃんもそれは同じだったらしく、不安そうな顔で頷いてくれた。
先手必勝。
間合いを一瞬で詰め、水下に槍を突き刺す。
得物越しに感じる、肉を抉り抜く手応え。
···おかしい。
こんなにも分かりやすい攻撃をあっさり喰らうとは考えられない。
コイツには何かある。
「無駄だ」
胸に突き刺した槍が押し戻される。
巻き戻し映像のように傷が塞がっていき、異物を排除しようとしている。
俺の[自動回復]よりも格段に強力な再生能力。
急所への攻撃は意味が無い。
「アカリちゃん、下がって!!」
ミオちゃんが両手を虚空に突き出す。
それを見た俺が飛び退いてから数瞬──不可視の質量が地面を円形に抉った。
しかし狙いが僅かにズレてしまい、敵が失ったのは左腕のみ。
1秒と経たずに再生を終えてしまった。
「少しばかり肝を冷やしたが···その力、未だ使いこなせていないようだな。次は見切るぞ」
ドンッ! ドンッ!
重力魔法の連続発動。
堅牢なダンジョンが僅かに揺らぐ。
高速で不規則に動き回る血の巨人は、巨体に似合わぬ機敏さでそれらを全て避けている。
“次は見切る”···ハッタリじゃなかった。
この調子で消耗戦に持ち込まれたら勝てない。
再生能力を無視するほどの威力と、回避を許さないほどの速度。
これらを両立するのは、やはり[犠牲的行為]しかないだろう。
「ミオちゃん!後はお願い!」
コイツを倒してもまだ終わりじゃない。
ダンジョンから生還するまでの道中にはモンスターがうじゃうじゃしている。
だけど俺は[犠牲的行為]を使うと数分は動けなくなる。
立ち直るまでの時間をミオちゃんに稼いで貰う必要があるんだ。
奈落級だろうと、このスキルなら通用するだろ───俺は腰から愛用のナイフを抜き、躊躇いなく自分に突き刺した。
肋骨を避けて心臓を貫くのも慣れたものだ。
ぼやける両目に、俺の身体から光が溢れ出していく様子が映る。
勝利を確信し、目を閉じる。
···巨人の笑い声が聞こえたような気がした。
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自覚なき復讐者の一撃は
既に看破されている
世界への復讐を阻止するのは
巨人を討ち果たすのは
“灯り”ではなかった
後天の力ではなく
生まれ持ったその力で
“押し潰せ”
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