第35話 きっかけ

前半はミオちゃん視点

後半はアカリ視点です


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自分の手に負えないほど強大なモンスターを前に、あの時の私は動けなかった。

だけどアカリちゃんは迷わずナイフを自分に突き立て、最強の龍種を倒した。

それを見て感じた強烈な危機感。



───このままでは、アカリちゃんが一人ぼっちになってしまう。



何が彼女を駆り立てるのかは分からない。

だけどこれからもダンジョンに潜り続け、いつか私を置き去りにするほど強くなるだろう。

強くなり続けて、誰も付いて行けなくなったら。

彼女の事は誰が助けるの?






もっとあの子を守るための力が欲しいと考えた私は、スクールカウンセラーに相談した。

その人はかつて深層で戦えるくらい腕利きの探索者だったらしいけど、怪我が原因で早期に引退。

そして現在の職に就いたという経歴だ。



「アカリちゃんの事はヨウツーベで見たから勿論知っているわ。可愛らしいけど、持っている力は規格外ね。底が全く見えない」



少しくたびれた白衣を纏い、長い黒髪を一つ結びにした若い女性は、顎に手を当て思案しているようだった。

切れ長の瞳の奥が翠色にきらめいている。



「事前アンケートの技能欄には“重力魔法が使える”と書いてあるけど、熟達度は?」

「···狙ったところに撃てない程度です。なので実戦ではほとんど使っていません」

「ふーん···出力は調整できる?」

「え?はい、出力の調整は簡単に出来ます。蛇口をひねって魔力を放出するイメージは、中学の選択授業で学びました」

「それならなんとかなりそうね。今度の日曜日、空いてるなら一緒にダンジョンへ行きましょう」

「え、いいんですか?」

「お節介かもしれないけど特別サービス。魔法を使えるだけでも凄いのに、あなたは重力魔法の使い手だからね。元探索者として放っておくには惜しいのよ。···あ、アカリちゃんも連れて来ていいわよ?」



◆◆



学校近くにあるダンジョンの中層にて。

ミオちゃんの訓練に呼ばれた俺です。

え、俺来る意味ある?と思ってミオちゃんに聞いたところ、「長時間放っておいたら勝手にソロでダンジョンに潜りそうだから」との返答。

そんなことするわけないじゃん(n敗)

···いや今は本当にしないよ?



当面の目標は“超超超超低出力の重力魔法による動作補助”を覚えることだそうだ。

例えば自分自身が移動する方向に重力を付与すれば移動速度が上がるし、メイスを振る方向に重力を付与すれば攻撃力が増す。

重力を付与する対象や方向を選べるからこそ出来る芸当らしい···なにそれ強くね?



そんなわけで訓練が始まったのだけど、ミオちゃんの成長速度が中々に凄まじい。



「私も風魔法の応用で似たようなことをやっていたから、その時の感覚が参考になるかもしれないと思って提案したのだけど···彼女の才能もとんでもないわね」



たった一度の練習である程度のコツを身に着けてしまい、以降は個人練習を積めば良いレベルに達したとのこと。

カウンセラーのお姉さんが練習に付き合うのが面倒くさいだけじゃね?とも思ったけど、実際にミオちゃんの動きは格段に良くなってる。



これは俺も負けてられん、ガンガンモンスターを狩りまくろう。

···え?自傷は『腕をナイフで浅く切る』程度に留めなさいって?

しゃーなし、地力を上げる特訓だと思おう。

まあ痛覚が無いと、たまに深く切りすぎる事はあるんですけどね···いやちょっと待って、わざとじゃないから!

『甘噛み禁止令』だけはやめて!






「何かがあれば、その力をもっと使いこなせると思うわ。だけどあなた達はまだまだ若い。まずは慌てず精進すること」




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わちゃわちゃしつつもダンジョンで鍛え続けた2人は、やがて下層や深層を越えた魔境──深淵にすら挑めるようになっていた。


···というわけで、過去編を1〜2話挟んだら最終決戦へ移行します。

ようやく完結が見えてきた。



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