第12話 なぜ俺を尾行する?

 なんという事だ!

 

 『変装』までも、失敗してしまった…。

 

 信じられない!

 

 どこからどう見ても、別人だったではないか。しかもあんな、主張の激しすぎる尾行をしている小娘に…。

 

 俺は、今も物陰から物陰へと、ダッシュで移動しながら俺を尾行している少女を視界の端にとらえながら、平静を装いつつ家路へと歩き続けた。

 

 なぜ変装が見破られたのだろうか?

 

 わからない…。

 

 くそっ、『降車』といい、『変装』といい、今までずっと成功させてきたのに、失敗続きではないか。


 だが。

 

 だが手はまだある…。

 

 なにしろ俺は、尾行者を巻く100の方法を持っているのだから。


  次はアレで行こう。

 

 アレはさすがに見破る事は出来ないはずだ。


 しかし、アレを成功させるには、スピードとタイミングが重要だ。俺は歩きながら鞄の中に手を伸ばし、あるモノがちゃんと入っているか、確認を行った。

 

 あまり後ろを気にしていると俺が尾行に気づいているとバレてしまうため、少女の姿は確認していないが、俺と少女の間にはそこそこの距離があるはずだ。

 

 俺は帰路の途中にある短い橋を渡り終えたところで、歩くスピードを一気に上げた。


 そして、俺はすでに競歩かというくらいのスピードで、住宅のある角を左に曲がった。

 

 急げ、急げ…


 …


 ほどなく、先ほどの少女が、角を曲がってやって来たのが見えた。俺が見当たらないので、相当焦った様子で周囲を見回している。

 

 フフフフ……。

 

 ……。

 

 そんな所にいるわけないだろう。

 

 ……。

 

 行き過ぎ行き過ぎ、俺はここだ。フフフフ……。

 

 ……。

 

 おい、そんなところに入っちゃダメだろ、不法侵入だぞ…。

 

 ……。

 

 いやいや、犬小屋の中にはいないよ⁉︎中にいた犬に吠えられてるし…。


 しかし、さすがにここは見つかるはずがあるまい。

 

 フハハハハ‼︎

 

 必死に俺を探す少女の様子を伺いながら、俺は余裕の笑みを浮かべたのだった。

 


 夏の夜も陽が落ち始め、ようやく薄暗くなった頃だった。

 

 結局少女は30分ほど周囲を探索し続け、こちらが可哀想なくらいに肩を落として大きなため息をつくと、駅の方向へと歩いて行った。

 

 やれやれ、相当粘られてしまったが、どうやら尾行者を巻くことに成功したようだ。

 

 しかし、思ったよりもタイミングがギリギリだった。ドアを開けるのに少しでも戸惑っていたら、少女に見つかっていただろう。カバンの中の、カードキーを事前に確認しておいて良かった。

 

 そう、私は尾行を巻くために、自分の車の中に隠れていたのだ。 私の車はスバルのフォレスターだが、窓もフルスモークにしてあり、外から中の様子を伺うことは出来ないのだ。家まではまだ少し遠いが、帰路の道で1番尾行者から隠れやすい月極駐車場を借りているのである。実家に駐車場はあるのだが、車に乗っている時に車で尾行されたこともあるし、家から少し離れた駐車場所を探していたというのもある。

 

 自分の車の中に隠れ、尾行者を巻く。これが尾行者を巻く100の方法の一つ、『マイカー』である。

 

 見事に決まった。毎月の駐車料金を払うのは痛かったが、今日、初めて元が取れたということである。

 

 フハハハ、フハハハハ‼︎


 しかし、今日はなかなかスリルのある1日だった。『降車』と『変装』までも失敗するなんて、初めてのことである。


 なぜ失敗したのか、後でしっかりと検証し、改良を加えなければなるまい。そう考えれば尾行者を巻く100の方法も、少女のおかげでより完璧に近づく事が出来たというわけだ。

 

 そして、どうやら俺は、普通の人間に戻る事は出来そうにないらしい。あの少女がなぜ俺を尾行するのか?


 そのあたりは謎のままだが、俺が行う事はただ一つしかない。

 

 これからも尾行を巻く100の方法を使って、尾行者を巻き続けることだけである!

 

 フハハハハ、フハハハハハ!!

   

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