第21話 「届カナイ声、焦燥ト隣」

【食堂・談話の時間】


夕食を終え、風呂も済ませた隊士たちが、

食堂にまったりと集まり始める。


食後の甘味をつまみながら、

軽口と笑いが飛び交う、何気ない時間。


勇人「でな、そっから春陽が“包め!”言うた瞬間よ、

光の羽がバサァや!バッサァ!って!」


紫音「勇人お前、見てへんのになんで知っとんねん!」


春陽「何回同じ話すんねん…もぉ、やめぇって恥ずかしいわ……」


空斗「けれど、実際の霊圧構造としても、

あの瞬間の流れは非常に興味深かった。

“守る”って想いが実体化した霊圧だよ」


春陽「やめろや、構造とか言われると一気に恥ずかしなる」



【そんな中・ひとり静かな昂大】


皆が盛り上がるその輪の中で――

昂大は、無言でコップの水を見つめていた。


背筋を伸ばした姿勢のまま、

微笑みすら浮かべていたが、

その瞳の奥に、ほんの僅かに“陰”が差していた。


(……春陽さんが、始解。

空斗さんは分析と支援。紫音さんはあの負傷の中でも全力で動いた)


(俺は……ただ、“まだ”だ)


(俺の斬魄刀は……まだ、何も応えてくれない)



【春陽、ふと気づく】


春陽は紫音に絡まれながらも、

ちらりと昂大の静かな目に気づいた。


(……昂大……)


一瞬だけ、自分のかつての“怖さ”を思い出す。


名を呼べなかった頃。

声が届かなかった頃。

誰よりも焦って、立ち尽くしてた、自分自身の姿を。



【会話がひと段落したところで】


空斗が湯呑みを置いて、

「……そろそろ、資料整理に戻る」と席を立つ。


勇人も「明日朝早いんで、今日はここで失礼」と手を上げて出ていく。


紫音は春陽の隣に座ったまま、

あくびをひとつして「……ちょい寝よかな」と体を伸ばす。


そのとき、

春陽がふっと立ち上がり、昂大の前にコップを置いた。


「……昂大、ちょっとだけ付き合えへん?」


昂大「……はい?」


春陽「ちょっと、静かなとこで話そか」



______________________________________



みんなの輪の中で、笑いがあるからこそ、

気づけた“静かな寂しさ”。


春陽が今、昂大に届けたいのは――

斬魄刀の名前や力じゃなくて、

“その声を聞こうとする気持ち”を信じること。

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