第18話 「生キテ還ル者達ヘ」

【五番隊・副官室】


夕刻の光が斜めに差し込む副官室。


帳簿と報告書の整った机の前、

時美は、椅子に腰をかけていた。


扉が二度、軽くノックされる。


「――どうぞ」


ギィ、と扉が開き、

三人がまっすぐに入ってきた。


春陽は紫音の肩を支えながら、

空斗は手に一冊の報告記録を持っていた。


三人の動きは、無駄がなく、そして凛としていた。



【報告・空斗】


空斗は時美の机の前に立ち、

一礼して報告書を差し出す。


「黒月副隊長、任務より帰還いたしました」


「三日間の調査記録、霊圧構造の異常性、

遭遇した模倣体の詳細、すべて記載済みです。

分析と処理は既に完了しております」


「必要に応じて、技術開発局への提出も対応可能です」


時美は一枚ずつ、目を通す。


(……さすが、空斗。寸分の抜けもない)


ページの端、紫音の斬魄刀による干渉データ、

春陽の始解記録、霊圧反応の変化まで――

すべてが、完璧に整理されていた。


「あと副隊長、手帳とても助かりました」


と頭を下げる空斗。



【空斗の一言】


「今回の任務は、個々の戦闘だけでなく、

隊としての“信頼と連携”の重要性を再認識する機会となりました」


「三人で、互いの命を預け合いながら、

最後まで、五番隊として行動いたしました」



【静かに、時美】


報告書を閉じ、

ふっと、目を細めた。


そして、

言葉はただ、たったひと言だった。


「……空斗、紫音、春陽――」


「生きて、帰ってきてくれてありがとう」



【瞬間、空気が揺れる】


その言葉が、

ふたりの胸に――まるで雷のように落ちた。


紫音「っ……あかんて……副隊長、そんな言い方されたら……」


春陽「や、やばい……無理、無理や……っ」


紫音の肩が震え、

春陽の目が瞬時に滲み出す。


一度涙がこぼれたら――

もう止まらない。



【崩れるふたり】


春陽「ほんまに……ほんまに、生きて帰れて、よかった……っ。副隊長、見た瞬間から、もうあかんわ……うっ、ぐ、ぅぇぇぇ……」


紫音「痛いのに……涙止まらん……副隊長の顔、見たらあかんやろこれぇぇぇ……!」


春陽も、顔を隠しながらしゃがみ込み、

紫音も鼻をすすりながら椅子の縁に掴まる。


空斗は静かに立ち尽くしていたが、

口元がほんの少しだけ、緩んでいた。



【勇人、飛び込む】


部屋の外で物音を聞きつけた勇人が、

勢いよく扉を開けて入ってくる。


「なに!? どうした!? 誰か死にそうな声出してるぞ!!」


目に入ったのは、

副官室で大泣きして崩れ落ちている春陽と紫音の姿。


そして、笑顔で迎える時美と、

やや遠巻きに立つ空斗。

察する勇人。


勇人「……ああ、これ“感動モード”か。了解。任せろ」



【勇人・全力応援】


勇人「副隊長ー! タオルと水持ってきましたー!

紫音は右肩脱臼してるからあんま抱きしめないように気をつけろよー!」


紫音「……泣いてるやつに実況すんなやぁ……!」


春陽「副隊長、ただいまですぅぅぅ……うう……!」


時美は、小さくふわりと笑って、

2人との涙と1人の想いを、ただ静かに受け止めていた。




報告は、数字で終わらない。

魂を削って戦った隊士たちの、

“生きて帰ってきた”という、それだけで――

何よりも価値がある。


五番隊はまた、

ひとつ大きくなった。


涙の中で、強くなった。


そしてその真ん中には、

副隊長・黒月時美が、いつも通り“変わらず”そこにいた。

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