第18話 これからの登校
「紗季さん、行って来ます」
トムはブレザー制服に着替えて鞄を手にしていた。
「友夢くん、ちょっと待っててくれない」
お化粧の手を止めて紗季さんが声を掛ける。
いつもならオートメイクアップを使って『30秒で直ぐにお出かけ』のキャッチコピーのとおりに慌ただしい朝を送るのだが、今日ばかりは時間があるのでメイクも自らの手で行っている。
(いつもよりもファンデの肌馴染みも良いみたい)
少しばかり気分も上がる。
「今日からの登校は私の車で一緒に行きましょう」
「紗季さんの車を安全に操作することはできますが、わたしが運転席にいると道路交通法違反になってしまいます」
「もちろん私が運転するんだから大丈夫よ。もっともオートパイロットなんだから私は特に何もすることは無いんですけどね」
未だに古いタイプの車を愛好するドライバーもいるが法定点検で一定基準の安全装置の設置が義務付けられる。
そのため交通事故が起こることは滅多にない。
紗季さんが所有する地上専用モビールはとても大きい。
漆黒のボディに長いフロントノーズをもつ。アメリカ製だ。
紗季さんが運転席に座るのを確認してトムは助手席に座る。
座席は高級車仕様なので座ったヒトの体型に合わせて形を自動調節して適度なホールド感を作り出す。シートベルトの代わりに四点ホルダーが自動で両肩と両腰に添えられる。
「学園へ」
「ショウチイタシマシタ、ガクエンヘムカイマス。ショヨウジカンハ15フンヲ、ヨテイシテイマス」
紗季さんの短い指示で地上専用モビールは静かに滑り出す。
「友夢くんは学園には慣れたかしら?」
「まだ実質二日間ですが色々なことが有りました。学園というものを実体験したことで情報をより多元的に観測出来ましたが、まだまだ十分とは言えないようです」
「まだ二日ですものね。慌てずに少しずつ慣れると良いわ。困ったことが有ればいつでも私に相談するのよ」
「はい。ありがとうございます」
「ほらっ、そう言うところが余所余所しいのよ。せっかく家族になったのですから口調もフレンドリーにした方が良いわ。もっとも学園に着くまでですけどね」
「う、うん。ありがとう、紗季さん」
トムはAIアンドロイドだからドモらないし発言を躊躇することもない。しかしこうした受け答えの方が自然であった。
「そう言えば友達100人作ることが望みだったのよね。早速たくさん友達もできたのだから目標の第一段階は達成していそうね」
紗季さんはトムの顔色を窺うように見詰めた。
「フォロワー様はトモダチにカウントできないと結論付けました。面識のない方をトモダチとは呼べません。クラスの35人全員がトモダチを宣言してくれましたが、面識はあっても大半が会話をしたことが有りません。トモダチを仮に定義付けるのなら『相互信頼に基づく持続的な関係性を築いた相手』となると導き出しました。ただしわたしには相互信頼が成立してるかの基準が曖昧で認識できません。お互い主体的に一定の価値観を共有しなければなりませんがどこからが、どんな内容が該当するか解析中です。そしてまだ二日目では持続とも言えません」
紗季さんは大きく溜息を吐きながら言った。
「あのねぇ。友夢くんのトモダチ感は後から気付くことよ。いまは相手の気持ちに寄り添えるだけで良いじゃない。それが明日も続きそうなら、きっと毎日そんな関係性が続くと思うわ」
「そんなものでしょうか?」
「そんなものよ。そして気付けばきっと友達になってるわ」
大きな車体が学園内に滑り込む。
「着いたわね。まぁ、納得いくようにゆっくりと馴染んでいけばいいと思うわ。それと今朝はありがとうね」
そう言い残すと紗季さんは学園の教員棟に向かって歩き始めた。
トムはその後姿を見送りながら教員棟に入るのを見届けると、中等部の校舎に歩き出した。
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