第7話 マスコミ

 トムの身体は軽量合金の骨格を持つ。

 しかしながら、屋上からの落下からその身を護るほど丈夫には出来ていない。

 その結果、関節部は著しく破損し軽量合金の骨格も一部は変形していた。

 トムは緊急事態を知らせるビーコンを発信して静かに時が過ぎるのを待つ。


 先生が駆け付け、学校から諸官庁へと手順通りに次々と緊急に連絡が入れられる。


 たちまち緊急赤色灯のともる空中モビールが学校周辺に集結する。

 緊急に駆け付けた警察や所管職員は学校保安員の誘導によって現場の視察を開始した。

 制服を着た警察関係者は迅速に事態の解決に向けて忙しく動きまわる。

 様々な遺留品や現場撮影、空中ドローンによる360度3D現場検証モニタリングが開始される。

 もちろん屋上への立ち入りの規制とトムが落下した周辺には真っ先に規制線が設けられて、一般人の立ち入りは固く禁じられた。


 また、トムの回収には科学技術省のロボット安全委員会から専門の職員が駆け付けることとなった。

 校内に乗り付けられた大型空中モビールからは大きなブルーシート・チューブが伸ばされ、スーツ姿の官僚や作業服姿のエンジニアリングスタッフがトムの身体をチューブの中から、空中モビールの機内に運び込んでいく。


 慌ただしい警察や外部スタッフの対応を理由に、急遽学校側は午後からの授業を中止して全校生徒に対して強制的に下校するように指示が出された。

 更に一部の生徒には学校側の立会いのもとで警察の事情聴取も受けることになった。

 それでも本来の下校時間までには全員が帰宅する運びとなった。


 帰宅時間頃になるとあれ程いた警察関係者や外部スタッフなどは、ほとんど校内で見かけなくなっていた。

 これで今回の騒動は終了するかと思われた。

 ただしトムに関する情報は明らかにされることは無かった。


***


 翌日、今回のできごとはネットニュースによって一面記事で報じられた。

―― 中学校においてAIアンドロイドが暴走し生徒一名が負傷 ――


「なにこれ! まるっきり嘘っぱちじゃない。フェイクニュースよ」

 土岐さんがタブレットのニュース記事を次々スワイプしても、どこのニュースサイトも同様の報道で埋め尽くされていた。

 早朝からのニュースは著名なAIアンドロイド専門家がコメンテーターとして呼ばれAIの危険性を訴えるものまであった。


 直ぐに友達とニュースサイトを共有して、連絡を繋ぐとみんな一様に驚きを隠せないでいた。

「あの負傷したっていう生徒って誰のことよ! あの場で誰も怪我なんかしてなかったじゃない。怪我をしたのはトム君自身じゃない……」

「あの後、警察の事情聴取でも起こった出来事は正確に伝わってるはずよ」

「こんなニュースが流れるのはおかしいよ」

 皆の想いは一緒であった。


 やがてその負傷した生徒というのが西野加奈だという噂が立ち始めた。

 学園のグループオンラインでは様々な憶測が流れていた。


匿名:どーせ、噂の出所は西野をいじってた曽根のグループだろ

曽根:あたしが何だって! 匿名なんかすぐにばれるんだから名前出しなさいよ

匿名;お前らが噂を立てなければ誰得な情報だよ

匿名:今ニュースサイトに投稿したけれど、フェイクニュースソースとしてアクセス禁止された

匿名:わたしも今から投稿してみるわ。目撃者の正確な情報は大切に扱われるはずだもの

匿名:駄目だ。いくつか投稿サーフィンしたが軒並みアク禁くらった

匿名:なんだよ! いつもは「皆様の情報は大切に扱わせて頂きます」なんてテロップ出してるくせに


 すると突然画面には大きな通信動画がアップされた。

学園公式HP:

 二年A組は諸案を検討した結果、本日より三日間を休校とする。

 昨日の事故に伴い、生徒のメンタルカウンセリングも実施いたします。

 この扱いは集団感染時のマニュアルに基づき……


 そして、二年A組は三日間の学級閉鎖が実施されることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る