第23話 ごっこ遊び


 こうやって遊んでいると桜としての人生を思い出す。


 私が生まれたのは桜が死んだ次の年。

 学校にも行けずに家の中でずっと閉じ込められ、桜のお父さんとの家族ごっこをして役割を果たす日々。

 唯一の楽しいことといえば試作品として作られていた六角 蓮司ちゃんと遊ぶことだった。


「ねぇお姉ちゃんは何役する?」

 この子は新郎新婦の子供で一緒に遊んでくれと頼まれたので仕方なく悠のそばを離れている。

「うーん、私は家族ごっこはしたくないな。」

「じゃあプリンセスごっこ!」

 おままごとはそんなとこまでできるのかと思っていると女の子は私のネジを指さしてはしゃいでいた。

「おねぇちゃんがティアラ持ってるからプリンセス役!私は、王子様役!」


 そしておままごと――人魚姫が始まった。


 舞台は海の上(湖の浅瀬)王子様は海で溺れてるところ。

 女の子はズカズカと浅瀬を進み水の上で浮かぶ。

 ――ん?

 

 バシャバシャバシャ

 

 女の子はパニックになって水面をバシャバシャしてより水深が深いところへ誘われる。


 ――私じゃとどかない。


 そう思ってすぐに私は助けを呼ぶ。

 助けはすぐに来て女の子をしっかりと抱いて地上へ戻す。


 彼の姿を見るだけで心が跳ねる私を感じる。

「悠……」

 私は声をかけようとしたが途中で止まった。


 彼の少女を見る目が私を見る目と同じに見えたからだ。

 心配する目?安心した目?それとはまた違う。何か特別な人を見る目。


 少しだけ感情が不安定になる。


 私を人間だと認めてくれた目には何が映っていたのだろう。


 私は気にしないふりをした。

 私が人魚姫であり続けるため。

 少し空気に体が溶けていく感じがした。

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