第二話
無線には「はーい」とすぐに返事がきた。こちらも落ち着いた声だが、少し緊張感にかけている。
返事から数分もしないうちに、ツィノが掃除をしていた展示室5側の扉が勢いよく開いた。無線で聞こえた声の主がやってきたのだ。
ツィノ同様黒いスーツを着用し、高く結われた髪は深い藍色。金色のプレートにはルリ・ブルーゴールドと名前がある。
「あらぁ、喧しいわね。」
異常事態にも関わらず、間延びした声だ。焦っている様子は全くなく、手にしていたモップを床に置いている。
そして、ゆっくりと切れ長の瞳をツィノに向けた。
「では、やりましょうか?」
「え、他のみんなは?」
ツィノの間の抜けた声に彼女は呆れたように言った。
「無線、また切ってたのね。出勤してすぐに収蔵庫に侵入者がいるって騒ぎになってたでしょ。」
ポカンとした顔をしているツィノに溜息をつくと、腰につけたポーチから何かを取り出す。
銀色の丸っとしたフォルム。取手とノズルが付いていて、まるで噴霧器のようなそれを笑う男に向ける。
「こいつにはこれで十分でしょう。」
一方、ツィノは床にモップを乱暴に置き、ポーチから端末のようなものを取り出す。それを男とルリに向けて構えた。
「いいよ!」
その言葉を合図にプシュッという軽快な音が響く。
ノズルから噴き出した白い煙を浴びると、男は急に静かになった。さっきまでの張り付いたような笑みが嘘のように消え、無表情になったそれは、かえって不気味だ。
「ちゃんと記録、できてる?」
すっかり静まり返った絵を背に彼女は振り返った。藍色の髪がフワッと翻る。ツカツカとツィノに歩み寄ると、高い身長を屈めて画面を覗き込んだ。
「いい感じでしょっ?」
誇らしげに見せられた画面には白い煙が噴き出す瞬間がしっかりと記録されていた。
ルリは赤い髪の上に手を乗せるとグリグリと撫で回す。すると、不満げな顔が彼女の方を向いた。
「また子供扱いして!同い年のくせに!」
「えー、だってぇ……。」
上から下まで見て、言葉を濁す。上から見下ろすルリに比べて、明らかに身長が低いのだ。
ツィノは言葉の続きに気がついたのか、ルリを睨みつけた。
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