Uncontrollable~混沌の渦中へ

秋葉天龍

プロローグ 

 この様な景色を自分の目で見られるようになると10年前の自分に言っても絶対信じなかっただろうなと内心で思いながら男は目の前に広がる景色を飽きもせずに眺めていた。


 テレビやネットではよく放映される景色だし自分が子供の頃から目にしてきた漫画やアニメでも何度も使い古された構図でもあり、いわば見慣れた景色とも言えるが実際に自分の目で見ることができた人は数えるほどしかおらず、自分がその一人になる事が出来たという事実が目に映る光景に現実味を感じられない一因でもあったのだろう。


 そして自分をこの場所に導いた運命のいたずらに自分の人生もなにがしかの意味のある物だったと感慨を深めるのであった。


 彼が覗いている小さな窓からは青い星が永劫の過去から変わらず輝いていて、所々が白い雲に覆われ幻想的とすら思える景色が男の目の前に広がっていた。


 そしてあそこには自身が長年連れ添った妻や子供達、気心の知れた友人達や自分をここに送り込むことに尽力してくれた関係者たちが住んでいる星でもあった。


「酷いな。」


 美しい景色を見ているはずの男の口からは思わずついて出た言葉は、だが彼の心情を的確に物語っていた。


 しばし信じてもいない神に何故故に人類を正しく導かないのかと益体もない事を考えていると静寂に包まれていた部屋に女性の声でアナウンスが流れた。


「まもなく冷却期間が終了します。関係者は所定の位置にお戻りください。」


 同じフレーズを2回繰り返すと放送は止まり、再び部屋は静寂に包まれた。


 男はもう一度窓の外の景色を眺めると「戻るか」と独り言を言って器用に体をひねり慣れた動作で軽く壁を蹴ると熟練した宇宙飛行士さながらに出入口に向かって一直線に無重力下の部屋を突っ切って飛んでいった。


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る