美少女カウンセリング
中田絵夢
1
…空が、こちらを見ている。
真っ直ぐに。
金色の腰まである癖っ毛に黒の控えめなフリルがついたワンピース。金色の長く力強い睫毛に空色の瞳。
フランス人形のような顔立ちに、寒気がした。真顔で、こちらを一心に見ている。片手には真っ赤な表紙の本を持って静かにたたずんでいる。
不思議な少女だ。
机とパイプ椅子のある無機質取調室の中、難しい書類を前に小さく座っている私は異様な空間に気まずさを覚えながら、少女の名前を呼んだ。
「…ル、ルネ、さん?」
少女は名前を呼ぶと、大きな瞳を細めて小さな口を半月型に開いた。
(不気味な笑い方をする人だな…)
彼女の名前はルネ・フォン・ド・ロワール。
たぶんどっかのお貴族様の娘さんだ。
あいにく私はそういうのに疎いし、取調べなんて初めてだし…?
(元々私は警察なんて嫌いだし、何故そんな真似事をさせられなけばならぬのか…よくわからんし…こんなことになるんだったら、何でも屋なんてやるんじゃ無かった)
私が心中変なことを思っていても、少女はさっきの不気味な笑みをずうっとうかべたままだ。
「ル、ルネ…さ、さん?良ければ…座って下さい、ははは、はは」
喋るたびに、目の前の美少女の影響か口角がつってうまく喋れない。(コミュ障はこういうときに困るんだよな)ルネさんが座れるように立ち上がって椅子を引くと、首を少し傾け、その空色の瞳を丸くしながら、制止した。
「…?ど、どうぞ?」
ハッとしたような顔をして彼女は私が引いた椅子に座る。赤い本を冷たい机に置き、足を膝に乗せた。小さな身長のお陰で足をぷらぷらと前後に振っていた。
(…かわいいな)
なんだかさっきの不気味さとは違い、普通の無邪気な少女に見えてきた。(気がする)
「…えーっと?」
そう言いながら私は自分の席に戻り、目の前の書類に目を通した。
書類には「カウンセリング」と書いてある。
それと、注意事項が少し。後は質問事項だの何だのが無駄に難しい言葉で書かれていた。
『◯注意すること
・トラウマを踏まないこと。
・相手を脅迫しないこと。
・相手を死傷させないこと。
他にも、人間的にアウトなことはやっちゃだめだぞ★
◯必ず聞くこと
・名前
・家族構成、関係
・事件の概要(その時何をしていたか)
この3つを聞いてくれればいい。
それ以外は好きにしてくれ!
君の今日の雇い主♡より』
…なんて適当な。(ところどころキモいし)
まあいいか。
とりあえずさっさと終わらせたい。
質問していくか。
書類から目を離してルネさんを見る。
空のような綺麗な瞳が、私を見ていた。
ぱち、っと目が合う。
「…綺麗な瞳」
「?」
「あ、あぁ、ごめんなさい、急に」
(何言ってるんだ私は!!!???)
大の大人が気持ち悪いだろ普通に!
謝り方も陰キャ臭くて嫌だー!!!
「…これ、ままと一緒なの」
「え?」
一人悶えていると、ルネさんはニコニコ笑いながら、私を見た。(…かわいいな)
「ぱぱは葉っぱ色だった」
「…黄緑…ですか?」
「ん、そう」
「へぇ、…す、素敵ですね」
(…かわいー、さっきの不気味さは何処?)
ルネさんは、私の突然の(キモい)発言に、ニコニコとした笑顔で答えていた。
それは年相応の少女のようだった。
書類を少し見ると、ルネさんの概要が書かれていた。名前、年齢、性別、住所、家族構成、これまでかかった病気(特定のものを一部)など、無駄に詳しく書いてある。
こんな情報があるなら、名前とかなんだとか、聞く必要ないよな…
(ま、とりあえず聞いてみるか。仕事だし)
「えっと、これからカウンセリングを始めますね」
「かうんせりんぐ?」
「質問したことに、ちょっと、答えればいいだけですから。そうしたら、終わりです」
頑張って口角を上げて微笑むと、ルネさんも同じように微笑み、「わかった」と言った。
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