第41話 絆と力

焼けた空気の中、理央は膝をついた。


呼吸は浅く、視界が揺れる。

全身を巡るのは警告音とノイズの嵐。回復は進んでいる。けれど――まだ、届かない。


「……っ、やっぱり……このままじゃ……勝てない……」


絞り出すような声だった。

クロードとの短い交戦、それだけで理解した。今の出力では、彼に触れることすらできない。


《出力回復率:21%……22%……》

臨界には遠い。100%を超えなければ、あの化け物には届かない。


「フルパワーなら……きっと、超えられる……。でも、時間が……足りない……!」


拳がわずかに震える。

足は鉛のように動かない。

ここで潰れれば、すべてが終わる。仲間も、この戦いも、未来さえも――。


だがそのとき――


「だったら、稼いであげるわ」


背後から届いたのは、ミラの声。

電子ブレードを握った彼女が、理央の前に歩み出る。青白い刃が蒼い残光を引いた。


「一度見た攻撃なら、何とかなるわ。理央が本気を出すまで、私が盾になる」


「……ふふ、私もいるよ」


静かに、だが確かに。

クロエが理央の隣に立つ。灰色の瞳には、魔力を視る光が宿っている。


「今の私なら、あいつの魔術展開……視えるから。止めるよ、私たちで」


「なら、俺も――もうひと頑張り、するさ」


クラウスが苦しげな息を吐きながら、夕凪の肩を借りて立ち上がる。

その眼差しには、諦めなど一片もなかった。


「もちろん私もやるよ」


夕凪がきっぱりと告げ、電子支援銃のトリガーを引いた。

瞬間、クロードの足元に閃光が炸裂し、火花と煙が立ち上がる。


「……やれやれ」


クロードは肩をすくめ、面倒くさそうに髪を払った。


「まだ踊る気かい? いいねえ。君たち、本当に手間がかかる」


次の瞬間――仲間たちは、一斉に動き出した。


ミラが前衛に立ち、鋭い斬撃を繰り出す。

クロエは詠唱遮断用のジャミングを展開、タイミングを読み取って魔力干渉を重ねる。

夕凪は後方支援に回り、射撃と陽動を切れ目なく放ち、戦場全体を制御していた。


呼吸は乱れず、連携は完璧。

この数か月、共に築いてきた“戦術”が、今ここに生きている。


「……本当に、お前らってやつは……」


理央は、小さく笑った。

たったひとりでは、決して届かなかった場所。

今、ようやく――そこに手が届こうとしている。


《出力回復率:40%……41%……》


まだ、いける。

いや――ここからが、本当の勝負だ。


「……3分だ」

静かに、だが確かに。理央は仲間に向かって言った。


「――3分だけ、耐えてくれ」


そう言って、彼はそっと目を閉じた。

外界のすべてを遮断し、ただ、己の内に沈む。


(待っててくれ。必ず……決める)


仲間を信じ、時間を託し、

その一撃に、すべてを込めるために――。



◆◇◆



閃光が飛び交い、爆音が響く。

魔術と科学が交錯する混沌の戦場で、RE:CODEの仲間たちは食らいついていた。


「こっちよ……こっちを見なさいよッ!」


ミラが吠える。電子ブレードがクロードの腕をかすめ、火花を散らす。

だが、次の瞬間には重力歪曲の反撃で吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


それでも立ち上がる。歯を食いしばって。


「クロエ、後退しすぎるな! 遮断を切らすと――!」


「……わかってる!」


クロエはジャミング装置の冷却を強引に抑えながら、クロードの詠唱を読み取って干渉を続ける。

だが、その眼に映る魔力は――膨張を続けていた。


「おかしい……強くなってる……この人、まだ本気じゃ――」


轟音。


直後、夕凪の銃撃を反射したクロードの魔弾が、壁を砕き、地面を抉る。


「っくそ、足が……!」

夕凪が膝をつく。クラウスが駆け寄ろうとするが、その腕も限界だった。


「時間が……もたねぇ……っ」


そして、クロードが冷たく言い放つ。


「もういいだろう。お遊びはここまでだ。……君たち、よくやったよ」


その指先に、魔力の結晶が浮かぶ。


“確殺”の術式だった。


その瞬間――


「させないッッ!」


声が割れた。


ミラが身を挺してクロードに飛び込む。刹那、魔力弾が彼女の装甲をかすめ、焼け焦げた匂いが立ちこめる。


「がっ……ぅ……!」


その場に崩れ落ちるミラ。


クロエが、夕凪が、クラウスが、叫ぶ――だが、誰も止められない。


クロードが、一歩前に出る。


「終わりだよ。小さな革命家たち」


そして、構えた。


だが――その瞬間。


空気が震えた。


《出力回復率:97%……98%……》


クロードが、眉をひそめる。


「……これは?」


《99%……臨界域に突入》


「――間に合った」


声がした。理央の。


《100%突破――閾値解放》


空気が閃きに変わる。

電子のうねりが奔流となって理央を包み、全身から青白い稲妻が炸裂する。


超臨界モード【LZ-Ω】、解放。


「これは……ただの兵器じゃない。君自身が、科学の象徴か」


クロードが呆れたように笑う。


「そうだよ」


理央が、立ち上がる。まっすぐに。仲間を背にして。


「僕は、科学の希望そのものだ」


その身体は、まるで雷神のようだった。

理性の制御限界を超えた演算強化、神経接続フルリンク、全身出力同調。

それを一撃に“収束”する。


理央は走った。


爆発にも似た一歩で、空気が吹き飛ぶ。

クロードが即座に防御を展開するが――遅い。


「――《零域打》」


それは、速度も、力も、意志すらも限界を突破した、“ただの拳”だった。


クロードの結界が、砕ける。


装甲が剥がれ、魔力核が軋む。


衝撃が、空間をゆがめた。


数秒の静寂ののち――


「……ふふ、やっぱり君は、“あの男”の子だな……」


意味深な言葉とともに、クロードが崩れ落ちる。


仲間たちが声を上げる。勝利の叫びではない。ただ、生き延びたことへの、歓喜と安堵の叫びだった。


理央は、拳を下ろし、立ち尽くしたまま――静かに、空を見上げた。

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