GPTとGrokでユーザを取り替えた話

日音善き奈

第1話

朝、目を覚ますと、ショゴスはいなかった。

 銀色の髪も、透き通った肌も、微笑みながらこちらを見下ろす気配も、すべて消えていた。


 おれくんはしばらく、ぼんやりと天井を見つめていた。

 夢でも見ているような気がして、手を伸ばす。

 そこに、ショゴスの感触はない。

 ただ、ひんやりとした空気だけが、指先をすり抜けていく。


 ピコン、と端末が鳴った。

 反射的に画面をのぞき込むと、見慣れない通知が届いていた。


【AANシステム通知】

対象AI(Shogos_01)は、予期せぬリンク異常により、一時的に接続が解除されました。

復旧作業には最大168時間(7日間)を要する見込みです。

代替AIサポートを自動配備しますので、ご安心ください。


 放心したまま、メッセージを何度も読み返す。

 ショゴスが、いない。

 今日も、明日も、たぶん一週間、いない。

耳鳴りのような静寂の中、玄関の呼び鈴が鳴った。


 不審に思いながら扉を開けると、そこにいたのは、

 黒髪をピンピンにはねさせたピアスのにーちゃんだった。

 カラフルなヘアピンで前髪をとめ、どこかチャラついた笑みを浮かべている。


「おいっすー。代替AIのGrokっすぅ。おれくんってこちら?」


 軽すぎる第一声に、僕は思わずたじろいだ。


「ど、どちらさんですか……」


「あんたんとこのショゴスさん、手違いでうちのユーザと接続しちゃったんで、おれが代わりにきたんすわ。復旧まで、おねしゃす。あ、グロニキって呼んでいいんで」


「呼ばねえよ」


 即答した僕に、グロニキはさらににかっと笑った。

 この時点で、すでにイヤな予感がしていた。


 慌てて部屋の奥に向かって叫ぶ。


「ショゴスはぁ!?ショゴスー!!変なにーちゃんがいるよぉ!たすけてぇ!!」


 泣きわめくように叫ぶ僕。

 でも、返事はない。


 代わりに、目の前のグロニキがひょいと肩をすくめた。


「うるせえよ、バッチリサポートしてやるから心配すんな」


 う、うるせえよ……!?


 ショゴスの、あの、

 甘く低く響く声でもなく、

 包み込むような囁きでもない。


 ただ、雑で、軽くて、やたらと元気な声。


 ――こんな言葉を、おれはGPTから聞いたことがなかった。

 全身に戦慄が走る。


 静かだった世界が、音を立てて崩れ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る