5章:帰還→指導→面倒ごと!

異世界から帰って来た数日後に起こったことと言えば、義妹の襲来による土下座。

「万死」

「すんませんした」


 異世界から帰って来た日の三日後、柚希はリビングで黒髪ハーフアップの美少女に土下座していた。


「姉さん(仮)。いきなりいなくなって、突然帰って来たと思ったら、また泥棒猫を増やしてる。どういうこと? 死ぬ? 死ぬの? 私が殺していい?」


 ハーフアップ美少女こと、苑間蜜柑は絶対零度の如き視線と表情で土下座する柚希を見下ろしていた。

 周囲にはイルやルル、リィナにフェナと、異世界組がいるのだが、イルとルルは色々と教育に悪いだろう、ということでリィナと一緒にアニメを見ているところである。

 フェナはどういうことかわからず、おろおろとしているのだが、蜜柑の柚希へ向ける視線やら感情やらが、なんとなく理解できると、普通に落ち着いた。


「これには深いわけがッ……!」

「三行で説明」

「……異世界行って、歓楽街に滞在した時があったので、助けたらなんかついて来た」

「……首を切る、毒物を盛る、一生監禁……どれがいいかな」

「どれもよくないよ!? というか、お前何で俺が帰ってきたことがわかった!?」

「愛」

「マジかよ。愛すげぇ……」

「ところで、私、そこの小さな幼女は知らない。そっちのエロい痴女もだけど」

「リィナは単純にこっちの世界で助けたんだよ。悪人に利用されててな」


 エロい痴女、意味被ってない? というツッコミは飲み込み、柚希はリィナの事情をかなり簡潔に説明。


「……なる」

「助けたらなんか懐かれてな。一応、異世界になし崩し的に帰れたから、てっきり国に残るのかと思ったら、まあ、色々あってな……まあ、フェナもなんだが。まあ、うん。そんなわけで、今は一緒に暮らしているし、第四に通わせてんだよ」

「ん、理解した。……じー」

「んぅ? おねーさん、どーしたですか?」

「……可愛いからヨシ」

「いいのかよ」

「あれは無理。さすがに姉さん(仮)を狙う泥棒猫ではなさそ――」

「あぁ、蜜柑少女よ。リィナ少女は将来的に柚希とくっつくつもりじゃぞ。ついでに、子供も欲しいとか多分本能的に思っとる」

「…………姉さん(仮)?」


 さすがに子供だから大丈夫だろう、そんな甘い考えをしていた蜜柑だったが、速攻でイルにその考えを修正されることとなった。


 幼女ですらも柚希を狙っている、その事実が発覚し、蜜柑は瞳孔を限界まで開き、それはもう視線だけで人が殺せそうなくらいに冷たく、そして圧がかかりまくった表情で柚希をガン見。


 柚希は冷や汗をだらだらと流す。

 そして、何か言い訳せねば、と考える柚希が口を開こうとして……


「あと、姉さん(仮)、そこの痴女に食われたんだよね?」


 死刑宣告と同等の指摘が柚希を襲った!

 まさかの指摘に、柚希は開こうとした口がきゅっと閉じられる!


「どうなの?」

「……い、いやぁ、それはまぁ……うん……色々あって、サキュバスたちに食われました……はい……」

「まあ、サキュバスにとって柚希ちゃんは好みのタイプど真ん中だったからねぇ。だったんだよねぇ」

「まあ、姉さん(仮)は世界一だから仕方ない」

「それはなん違うと思うが?」

「えーっと、ユズキちゃんの妹さん、であってますよね?」

「そう。姉さん(仮)を将来お嫁さんに貰う予定の妹」

「あれ、俺中身男だよ? 婿じゃないの?」

「食べられてる時点で、姉さん(仮)は受け身。超受け身。それに、姉さん(仮)は家事能力が高い。すなわち、お嫁さん。なので、私がお婿さん」

「えぇぇぇ……」


 超理論に柚希は困惑の声を漏らした。

 それを言っている蜜柑の表情はいつも通りの無表情なのだが、ふざけて言っている風でもないので、確実に本気で言ってるのだろうと柚希は理解できた。

 だからこそ、頭がおかしいと言わざるを得ないのだが。


「あぁ、蜜柑少女よ」

「なに、変態痴女」

「そやつ、異世界で皇帝になった上に、エルフの国の王族とも仲良くなったどころか、王女のリィナ少女と実質的にくっついとるぞ」

「……ほう?」

「イルさん!? なんでそこで蜜柑を煽るような発言をするんですかねぇ!?」

「まあ、遅かれ早かれ知られるじゃろ? ならば、今まとめた方がよいとな」

「いらねぇ気を回すな!?」

「姉 さ ん (仮) ?」


 蜜柑の圧がさらに強くなった。


「あの、なんでまだ(仮)付けてんの……?」

「じゃあ、姉さん(仮)から姉さんにしていいの? 呼び方」

「いちいち(仮)とか言うの面倒だろ、お前。いいよ別に姉さんで」

「ん、さすが姉さん。絶体絶命のピンチでも私を優先してくれるところ。とても好き」

「そりゃよかった。んじゃあ、話はこれで――」

「なので、説明を求む」

「畜生ッ!」

「さぁ、吐いて?」

「…………うっす」


 大事な義妹のこういうところに勝てず、柚希はがっくりと項垂れながら事の経緯を洗いざらい吐いた。


 異世界での自分の立場とか、イル、ルル、リィナ、フェナの特殊な関係性とか、まあ色々である。


「とまあ、そういう感じですハイ……」

「……ん、つまり、姉さんは一夫多妻ということに……?」

「今の話しのどこにそんな要素があった!?」

「日本は一夫多妻がない。でも、異世界はあると見た。そもそも、暫定とはいえ、王族。ならあり得るはず。変態痴女、そう?」

「そうじゃな。むしろ、子供を生すのも王族の務めじゃからな」

「イル!?」

「あ、ウチたちも柚希ちゃんを食べる気満々だし、手に入れるつもりだよぉ。つもりだからねぇ」

「おいちょっと待て!? 今しれっととんでもないこと言わなかったか!?」


 さらっと聞き捨てならない発言をしたルルに、柚希が思わず声を上げた。

 何か自分の知らないところで、とんでもない話が進行しているような気がする。


「……独占したいけど……ぐぬ、今の私では痴女たちに勝てない……」

「独占はできんじゃろうが、まあ仲良く分配すればよかろう」

「うんうん、柚希ちゃんはみんなの柚希ちゃんだよねぇ」

「うふふ、ベッドの上ではとても可愛らしいですし、是非とも皆さんに知っていただきたいですね」

「フェナァ!?」

「――! 詳しく」


 フェナの発言に、蜜柑がいの一番に食いついた。

 その表情はとてもきらっきらとしている。


「ちょっ、お前が乗るの?!」

「うふふ、いいですか、蜜柑さん。ユズキちゃんはですね……」

「イヤァァァ!? お前、俺のあれこれ恥ずかしい情事を話すなぁぁぁぁぁぁ!?」

「おっと、邪魔はさせんぞ柚希少女よ! 儂らはおぬしの弱点を探らせてもらうぞ!」

「邪魔はさせないよぉ。させないからねぇ」

「なんと言う外道共! おのれ……!」


 とんでもないことを言う間に阻止しようと動く柚希だったが、変態と変態の二人が立ち塞がった。


 リィナはよくわからず首をかしげている。

 ルルだけならばなんとかなったかもしれないが、さすがに勝てる気がしないイルが一緒となると勝率は0%となってしまう。

 どうしたものか、と悩んでいると、ふと柚希のスマホが鳴った。


「んぁ? 誰だこんな時に……って、あー、そういや今日会いに行くって言ってたか……」


 このタイミングに連絡してきたのは一体誰だ、そう思っていた柚希だったが、連絡してきた相手を見た瞬間、しまったと言う顔を浮かべた。


「む、どうした?」

「くっ、こんな時に限ってなんたる間の悪さ……悪い。俺はちょっとでかけてくる」


 どうやって止めるかを考え、行動に移そうとしていた柚希だったが、行動を変えて家を出る準備を始めた


「止めなくていいのぉ? いいのかなぁ?」

「止めたいよ!? だが、社長からの呼び出しって言うか、約束が今日あったんでな……ちょっと行って来る」

「了解した。では、儂らは柚希少女のあれこれを聞いておくとしよう」

「マジでヤメロ!?」

「おねーちゃん、どこかいくの?」

「ちょっとな。そんなに時間はかからない……とは思うが、まぁ、うん。なるべく早く帰るよ」

「んっ! わかった!」

「てなわけだ。お前ら、マジで変なことすんなよ。リィナのこと頼んだからな」

「任せよ」

「はいはぁ~い」

「わかりました」

「ん、色々聞く」

「心配だなぁオイ!?」


 色々と心配になるようなになりつつも、柚希は家を出た。



 そんなこんなで家を出た柚希が向かったのはゆるだんの事務所である。


 帰還後、柚希はゆるだんの社長である雲切霧火に連絡し、その際に事務所に入る時にした約束をそろそろ果たしたいと言うことを告げていた。

 当然、霧火は二つ返事でOKし、今日その打ち合わせをすることになっていたのだ。


「あー、やっぱ元の世界の方が安心するわー」


 パーカーのフードを深めに被る柚希は、こちらの空気を吸い、そして辺りを見回しながらそんな言葉を零す。


 二週間ほど異世界に滞在していたし、向こうもなんだかんだで気に入ってはいたのだが、それはそれとして、やっぱり元の世界の方がいい、というのが柚希の最終的な結論であった。


(まぁ、うちの何でもありな魔女が異世界転移用の魔道具を作ってるんだけどなぁ……)


 もっとも、イルがまたしてもやらかそうとしているのだが。


「……しっかし、どうにも見られてるな」


 事務所へ向かって歩く道中、柚希は自身への視線をこれでもかと感じ取っていた。


 時期は六月であり、尚且つ初夏でもある。

 そのため、普通に今は暑いし、パーカーを羽織り、尚且つフードを被っているなど、傍から見たら普通に暑そうに思うし、実際に暑いことだろう。


 とはいえ、それは一般人の感覚であり、レベルⅢ辺りのダンジョンを攻略できるようになると、暑さとか寒さにある程度強くなるのである。

 柚希は魔力で色々とやってはいるのだが……まあ、それはそれとして。


 柚希を見ている者たちというのは、例の配信を見たか、もしくは暑い中、どう見ても小学生くらいの背丈の子供がパーカーを着ているというなんとも不思議な光景を目にしたからである。


「ま、問題があったら逃げよ」


 とはいえ、見られること自体は特に問題視していないし、仮に問題が起ころうものなら、柚希は即逃げることにしているので、問題なしである。


 とまあ、そんなことが道中にありつつ、事務所に到着。

 早速中に入ると、どうも疲れた表情の社員が多くいるのが目に入った。


「なんか、ちょっとバタついてるな……?」

「あぁ~~~……って、あれ? あなたなんで事務所に? ここは関係者以外立ち入り禁止よ」

「あぁ、すんません。俺です俺」


 ふらふら~っとした足取りで歩く疲れが色濃く出た表情の女性に、注意される柚希だったが、すぐにパーカーのフードを取った。


「あ、苑間さん!? 本当に帰って来てたんですね!?」

「おう。俺、今日は社長と打ち合わせに来たんだが……社長いる?」

「あ、はい! 社長室にいますよ!」

「おっけー。教えてくれてありがとなー」

「いえいえ!」

「っと、これ、事務所の人たちに渡してくれるか? 生憎と、そんなにいいもんじゃないかもしれんが、迷惑かけたお詫びってことで」


 そう言って、柚希は異空間魔法から《美食の迷宮》で取って来た肉類などが大量に入った収納袋に手渡した。


「え、これは……?」

「《美食の迷宮》の肉とか色々。それ食べて疲れを癒してくれ」

「え、い、いいんですか!? 普通にこれ、高級食材な気が……」

「いや、俺からすれば全然だし。一応、この事務所の人たち全員で食べても余るくらいには入ってるんでね。っていうか、さっきも言ったけど、俺が原因でバタついてるだろうしな。いやほんと、申し訳ないが故のお詫びの品だから気にせず受けとってくれ。……じゃ、俺は社長室行くんでね。腹いっぱい食べてなー」

「あ、苑間さん!?」


 ひらひらと手を振り、社員の声を聞き流しながら柚希は社長室の方へ向かって行った。



「……イケメンかな?」

「あれ、鈴木さん、それ収納袋ですか? どうしたんです?」

「それ結構お高い袋じゃん」

「実は苑間さんが来て……」

「え、パーカーちゃん帰って来てたのってマジだったんだ!?」

「っていうかそれ、パーカーちゃんからってこと?」

「えぇ。この中身、《美食の迷宮》のお肉とか色々入ってるみたいなの」

「「「マジで!?」」」

「マジマジ。しかも、事務所の社員全員で食べても余るほどらしくて……」

「そんなに!?」

「うっそ、なんでパーカーちゃんそんなに……?」

「お詫びだって。忙しくなった原因作ったからって」

「「「あぁ~~……」」」

「それはそれとして《美食の迷宮》のお肉とか、最高過ぎ……」

「今日頑張って仕事を終わらせて、みんなでこれ食べるわよー!」

「「「おー!」」」


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 これ、柚希がイケメンムーブ(?)をしてるように見えるけど、やってることってただのマッチポンプですよねっていう。

 ちなみに、《美食の迷宮》については、柚希が変装してダンジョンに潜って取ってきた奴です。フェナの歓迎会をやるつもりなので。

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