食事処.緑

Rie🌸

第1話 仕込み

春は桜。夏は向日葵。秋は秋桜。冬は山茶花が一望できる庭園がある。

そこでひっそりと営業している食事処がある。

『食事処 しょくじどころみどり


食事処を営む女店主の緑

髪を結って黄色の三角巾を結んで、年季の入ったベージュのチェックのエプロンをきゅっと絞める。

童顔の為に年齢不詳であるが、30歳は既に超えているはずだ。


「緑さん!今日は予約が3名入ってます。」

大学生のアルバイト。梶原元かじわらげんが厨房にいる緑に声をかけた。


「はーい。元くんは下拵えをお願いね。」

ニコッと口角をあげた。

「分かりました。」


朝の仕込みは早朝から始まる。


◇◇◇

俺がここで働いたのは偶然だ。

梶原元は大学の学費を稼ぐために、食事を抜くことが多かった。

ある日、限界を迎えて食事処.緑の店の前で倒れたのである。


(俺、死ぬのか)

かすれゆく意識、ドアががらがらと開けられた。

「行き倒れとは今のご時世穏やかじゃないわね?」


◇◇◇

元は店の畳に寝かされている。


(ここはー?)

厨房にはお米が炊ける音。トントンと食材を切る音が聞こえてきた。


掛け布団に寝かされていた元は飛び起きた。

「あら、目覚めたのね?」

随分、若い女性。学生でも通じるだろう。

黄色の三角巾。年季の入ったベージュのエプロンをしていた。

「あの店の人にご迷惑かけたこと謝罪したいんですが、」

俺の言葉に笑顔で答えた。

「いいのよ。私が店主だから」

そう言ってウィンクされた。

「!!」


「これ食べなさい。余りもので作ったのだけどね」

彼女はお盆の上に、鮭おにぎりと卵焼き。豆腐のネギの味噌汁とキュウリの御新香が載っていた。

俺はゴクリと唾を飲み込む。

ここのところ、コンビニの菓子パンばかりだ。

「いいんですか?」

「ええ」


おにぎりを掴んで、鮭のしょっぱさ。まいてある海苔とお米の甘さが絶妙の上手さだった。

卵焼きはふわふわで、備えてある大根下ろしをつけて食べていく。味噌汁もキュウリの御新香も気がついたら完食していた。

注がれていた麦茶をグイっと飲み干す。

身体中に力が漲っていく。

「ごちそう様でした。美味しかったです。久しぶりに生きてる感じがしました。」

「どういたしまして」

彼女は笑顔で答える。


『ねえ、君ウチでバイトしない?まかない付きよ。』


こんな上手い飯を食べれるなんて、役得じゃねえか。元は即答で答えた。

「やります。」




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