1-3 ゲームスタート
謎すぎるメンバーが、トンネルの入口に集まった。
実力未知数の除霊師、刻崎逢魔。
Uトンネルの霊、加奈子。
ゲームを取り仕切る、審判の霊。
そして俺、何故か現場に居合わせたことで見物人になったゴーストハンター、尾木琢磨。
今から刻崎さんと加奈子の魂を賭けたゲーム、『レイカントンネル』がスタートする。
念の為、ルールのおさらいをしておくことにしよう。
~レイカントンネル ルール説明~
・全長380mのトンネルを使って双六を行う。
・先攻後攻を決め、交互にダイスを振って手番を行う。入口をスタート、出口をゴールとし、先に380m進みトンネルから出たプレイヤーが勝利となる。
・ゲームには普通の6面ダイスを使い、出た目の数×10m進むことができる。来た道を逆戻りすることは不可。
・各ターンは3分で強制的に終了し相手に交代。ダイスの目×10mの距離を進みきれていなかった場合、最後に到達した10の倍数メートルの地点に戻される。
・ターン終了時に両プレイヤーが同じ地点にいた場合、1秒間の『タソガレドキ』が始まる。『タソガレドキ』の間は呪いや術の使用が解禁され、対戦相手に直接攻撃できる。
・禁止行為は他者への暴力。術や呪いによる間接的なものも含む。
……要するに、相手より早くゴールしろってだけだ。そう考えるしかない。『タソガレドキ』については始まってみないことにはよくわからないし、その他のルールも当たり前のことを言っているだけだ。だとすればこのゲーム、決着の方法はかなりシンプルになる気がする。
「さて、たった今ゲームが始まったところではございますが……まずは先攻後攻の決定からです。お互いの合意があれば、どのように決めていただいても構いませんが……」
「俺が先攻だ。それでいいな?」
加奈子が何か言うより先に、刻崎さんが口を開けた。何というか強引なやり方だが、その理由もわかる。
このゲームは恐らく先攻有利だ。先にゴールした方が勝ちになる以上、出だしは早い方がいい。もちろん運次第ではどうなるかわかったものではないのだが、先攻を取っておくに越したことはない。
「勝手に決めないで頂戴。私も先攻希望なんだけど」
「……チッ」
「1個ずつダイスを振って、出目が大きい方が先攻っていうのはどう? 同じだったらやり直し」
「んじゃそれでいい。ダイス寄越せ」
公平なルールを望む加奈子が先攻を譲らないのは当然だ。刻崎さんが面倒くさそうに彼女の提案を受け入れると、審判の霊はどこからともなく6面ダイスを取り出し、二人に1個ずつ渡す。見たところ、何の変哲もないサイコロだ。二人はしげしげとそれを眺めた後、納得したように地面に放った。
カランカランと小気味よい音がトンネル内部で反射して響く。出目は刻崎さんが「3」、加奈子が「2」だった。
「ッシャ、先攻は俺だな」
「……異論はないわ。さっさと進めなさい」
「では、刻崎様の先攻よりゲームを開始いたします。ダイスを振ってお進みください。3分の計測開始です」
審判の霊はタブレット端末のようなものを作り出し、タイマーを操作した。砂時計のアイコンと共に3分のカウントダウンが始まる。
刻崎さんはダイスを拾い上げ、先程と同じく地面に転がす。出目は「4」だ。
「悪くねぇスタートだな。つーわけで、お先に」
軽い口調で言い捨て、彼は歩き始める。トンネル内部は10mごとに線が引かれており、進んだ距離がわかりやすくなっていた。審判の霊による計らいだろう。ほどなくして刻崎さんは40mを進み終わり、ターンが終了した。当然だが、3分どころか1分もかかっていない。後攻の加奈子もダイスを振り、出目の「5」に従って50mを進んだ。ここまで見た感じ、普通の双六と何も変わらないが、どこかで変化が訪れるのだろうか。
「では、私たちは先にゴールまで行って待っていましょうか。ゲームの状況は私の分霊を通じて確認できます」
プレイヤーの二人より少し進んだ地点でゲームを見守っていた俺に、審判の霊が話しかけてきた。そう言うと彼の手から青い炎のようなものが現れ、本体である彼から分離する。人魂のように見えるが中心部分はカメラのようになっており、その視界が審判の手元の端末に映し出されていた。離れた位置から観戦できるとはなかなか便利な力を持っているではないか。俺は彼の言葉に応じ、観戦しながらトンネルの出口に向けて歩いていくことにした。
心霊スポットのトンネルを、霊と一緒に話しながら歩くという異様な状況ながら、不思議と恐怖はない。それ以外の思考で頭が埋め尽くされているというのはあるが、隣にいる霊……審判には本当に害意がないようだった。ただ、ゲームを管理するためだけにいる存在。人間を襲う気はさらさらないのだろう。
「あの、そういえば……あなたのことは何て呼べば」
「名乗るほどの者ではないのですが……やはり呼び方がないと不便ですよね。私のことは気軽に
アノン……
「亜音さん、ですか。そういえば確か俺も名乗ってなかったですよね、ゴーストハンターの尾木琢磨って言います」
「尾木様ですね、よろしくお願いします。時に尾木様……このゲーム、貴方は一体どちらが勝つと思われますか?」
亜音さんは俺と話をしながらゲームの状況を見て、正確にタイマーの管理をし続けている。なかなかハイスペックだ。
「えっ? うーん……どっちが勝つか、ですか……」
「別に魂を賭けているわけでもないので、気軽に答えていただいて構いませんよ」
「えっと、じゃあ……今の時点では刻崎さんですかね? やっぱ先攻を取れたのはデカいと思います」
もっと長くゲームが続くならともかく、このトンネルは380mしかない。先攻の有利が気にならなくなるにはもっと大量のダイスを振る必要があるだろう。この設定で後攻が勝つには、相手より大きい数字を連続して引き続けるくらいの運がないと話にならない。
そう、運だ。結局のところ、このゲームは運の勝負になるはずなのだ。
「ルールを聞いたときから思ってたんですけど……このゲーム、やっぱ運ゲーじゃないですか? ダイスの目は実力でどうにもならないし、先攻後攻が決まった時点である程度先攻の有利は確定してる。戦略性の欠片もなくて、俺としてはそこまで魅力を感じないというか……」
「なるほど、面白い分析ですね。確かにこのゲームは運の要素が大半を占めています。それを解消するためのルールが『タソガレドキ』なのです」
「それにしたって、相手と同じマスに止まれるかどうかも完全に運じゃないですか。相手との距離が60m以内だとしても、同じ地点に行けるかどうかは6分の1じゃ……」
かねてからの疑問を亜音さんにぶつける。『タソガレドキ』は実力勝負の場だとしても、そこに突入するかどうかさえ運。ゲームとしては運ゲーの域を出ていないのでは?
俺の言葉を聞いた亜音さんはニコニコと笑みを浮かべ、楽しそうにしている。何だ? 俺の解釈に何か間違いがあったのか……?
「尾木様、『3分間で強制交代』のルールについてはどうお考えですか?」
「え? それはまあ、ゲームが無限に長引くのを防ぐために丁度いいのでは……」
「そこです。確かにその側面もございますが、見方を変えればこのルールには別の使い方があります。ダイスで出た目の分だけ進みきれていなくても、3分経ったらそのターンを終了する。『出た目の分だけ進まなければならない』とは、言っていないのですよ。そして、ターン終了時、両プレイヤーが同じ地点にいた場合『タソガレドキ』を開始する……」
「…………あっ!?」
そこで初めて気が付いた。このルールの真の姿に。3分ルールはただの時間制限としか思っていなかったが、その実、「好きなところで進むのをやめられる」という穴をついた戦法が存在するのだ。そしてこれを使えば、『タソガレドキ』を起こすのは格段に容易となる。
つまり、仮に相手が30m先にいた場合、3以上の目を出せば相手と同じ地点に止まることができるのである。
「もしかして、二人もそのことには……」
「当然気付いておいででしょうねぇ」
多分、初めから。その言葉を隠し、亜音さんは笑う。となると、何だ? つまり、ゲームが始まる前から二人は――とっくに俺の理解の先を行っていた。俺だけが、ルールを聞いてすぐにこんなことも理解できないボンクラだったのだ。改めて、ゲームに魂を賭ける二人の凄さを思い知る。
「これを踏まえると、『タソガレドキ』の発生はランダムではなくなる。つまり、後ろを行くプレイヤーだけが『タソガレドキ』を始めるかどうかを選べるのです」
改めて、タブレットの画面に目を落とす。今の進行状況は刻崎さんが230m、加奈子が200m。概ね半分を過ぎたといったところだ。
ふと、冷たい風が吹き抜けた。トンネルの中とは違う感触だ。顔を上げると、その理由に気が付いた。
「おや、出口に着いたようですね」
一足先にトンネルを抜けた俺達は足を止め、二人の到着を待って勝負の行方を見守る。
このゲームはただの運ゲーではない。複雑な心理が絡み合い、その"時"が来ればお互いの全力をぶつけ合う。
ここからが本当の勝負だ。
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