子どものころ怖かったもの
桃太郎
修学旅行の夜
「俺、昔めちゃくちゃ怖かったものがあってさ…」
友人の遠野直樹がそう話しだしたのは、修学旅行一日目の夜であった。
広い和室、男子高校生六人部屋、修学旅行という非日常に、僕たちはとても寝ていられなかった。明かりを消し、頭を寄せ合って恋愛話でもしたいところだったが、非常に残念なことに恋人がいる奴が一人もいない。可愛い彼女が欲しいよな~とぼやくだけで恋バナは終わる。さてどうしたものかと考えていると
「じゃあさ、こういうのは?」
ムードメーカーの安本が懐中電灯で下から顔を照らし、恐ろしい表情を作った。
「一人一つずつ怖い話しようぜ。俺から時計回りな」
「うわ、マジかよ~!」
「いいじゃんそれ、やろうか」
安本の発言に周りはわあわあと盛り上がる。僕もうれしくなって「賛成!」とはやし立てた。実は、僕は怪談が好きなのだ。生産性のない恋愛話より、怖い話大会の方がずっと良い。
こうして、僕たちは怪談を始めた。正直なところ、怪談好きの僕からすれば、ありきたりでどこかで聞いたような話ばかりだ。しかし、暗い和室や下から照らす明かりなどがそろえば、なかなか雰囲気が出るものである。
「ほら岩田、次お前な」
「ああ、ありがとう」
僕は四人目から懐中電灯を受け取り、小さな声で話し始めた。
「…これで僕の話は終わり。で、ここからが大事なんだが、この話を聞いた奴にも、同じような災いが降りかかるらしい」
「おい、そういう系勘弁しろって~」
「やっべ、めっちゃこえーじゃん」
僕が話したのは、旅館で起こった祟りの話だ。ネットで見たものをアレンジしただけだが、今旅館にいるということもあり、皆なかなか怖がってくれたようだ。反応に満足した僕は懐中電灯を隣にいる直樹に渡す。
「ほら、次は直樹の番」
「サンキュ、恭平…。っていうかみんなすごいな。俺、なんか話せって言われてもあんま思いつかないなあ…」
直樹は困ったようにあたりを見回し、ゆっくりと話し始めた。
「怪談っぽくないかもだけど、俺、昔めちゃくちゃ怖かったものがあってさ、写真館のCMなんだけど…。駅前にある■■フォトスタジオって知ってる?」
「知ってる知ってる! でもどんなCMだったっけな」
安本が合いの手を入れる。■■フォトスタジオは全国展開している有名な写真館だ。しかし、僕もCMをすぐに思い出すことはできなかった。
「今もテレビで流れてる、別に普通のCMなんだけどさ、昔は一部だけ違ったんだ。小学生のころ、それがすごく怖かった」
直樹は、そのときのことを思い出すように目を伏せた。
「三十秒くらいのCMでさ、最初はいろんな写真がスライドショーみたいに流れるんだよ。七五三とか、入学記念とか、ペット写真とかな。そのときはピアノの音楽と、女の人の声が入ってんだ。『お子さんの成長…』みたいな。普通だろ?」
皆は真剣な顔で、直樹の話に聞き入っている。
「で、でかいカメラをこっちに向けた男の人が映るんだけど…、そのとき音が無くなるんだ。BGMとかもない、マジの無音。男の人が笑顔でカメラを向ける映像が無音で何秒か続く。その後、撮影スタジオに家族が入ってきて並ぶんだけど…そこも無音。父さんと母さんと、男の子が二人の四人家族だった気がする。仲良く話してそうな映像なんだけど、音楽もセリフもないんだよ。テレビの音が消えたんじゃないかと思うぐらい、シーンとしてる」
家族団らんを映しているのにもかかわらず無音のCM…、想像すると確かに違和感がある。
「その後画面が切り替わって、写真館の名前と、電話番号を女の人が読み上げて終わり。このCMなんか怖かったんだけどさ、中学生になって久しぶりに見たら変わってたんだよな。無音だったとこにちゃんと音楽とセリフがついてた。クレームでもあったのかなって思うよ。…っていう話なんだけど」
直樹の話が終わると、安本は適当な拍手をしながら言った。
「なんか変な話だな、CMで無音ってあんまりない気がするし」
「だよな。実は俺、このCMのせいで、小学生の時カメラ向けられるのが苦手になってさ、写真も嫌いだったんだよ。今は平気だけど、写真を撮ろうとしてくる人が怖く見えてたっていうか、それで写真撮られそうになったら逃げたりしてた」
直樹にそんな過去があったとは初耳だ。高校で直樹と出会った僕は、友人の新たな一面に驚きつつ、何か引っかかるものを感じていた。
「なあ直樹、そのCMってさ…」
「おい、ヤバいぞ先生来るかも」
直樹に話しかけようとした僕をさえぎって、安本が慌てた声で言う。隣の部屋から先生の怒鳴り声がしていた。僕たちと同じように起きて、騒いでいた奴らが叱られているようだ。
すばやく懐中電灯を消して布団に潜り込む。緊張しながら息をひそめていると、だんだんと眠気が襲ってきた。
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