八咫烏追放編 -Disappeared Rain-
狼谷 恋
プロローグ
深夜零時を過ぎた都内
いつもならまだ少なからず人の姿が見られるであろう都内も今日ばかりは静まり返っている
首都高ですら車の姿がない
いや…一台を除いて
「……不気味なくらい静かね」
霧雨 麗
八咫烏隊員,即応部隊
彼女は今まさにその使命を全うしていた
「今日に限って怪異事件の連続連続…繁忙期か何かですかね?霧雨先輩」
「無駄口は不要よ松葉,それにしっかり運転してちょうだい,警察に見つかったら一発で免許停止よ」
「同じ警察に止められるのはごめんよねー,こう…私達のエンブレム見せれば見逃してくれない?」
「はぁ…花崎,貴女もしかして普段からやってないでしょうね?」
「朝日さんだって人の事言えるんですかー?よく食堂で割り込んでくるじゃないですかー」
車内にいる四名
いずれも即応部隊の隊員だ
即応部隊の使命は怪異事件発生時の即時現場への出動
普段であれば各々が単独で現場へと向かい,本隊到着までの遅滞戦闘が主な役割となっている
しかし今夜に限っては違っていた
「これで二件目…いえ,私達を除けば既に二桁を超えている…」
事件の発生はいつ如何なる時に起こるかは予測が出来ない
稀にこうして広い範囲で同時に怪異事件が発生する場合もある
しかしそれはあくまでも稀な状況だ
その様な事態になるのであれば予測は出来なくとも前兆と呼べるものが見られる筈
だがそれすらもなかった事が麗は気掛かりだった
(都内のあちこちでの怪異事件の同時発生…さっき本部に戻った時も他の人達を見るに相当焦っていた…)
つい半刻程前,本部へと一度帰投した際にすぐさま次の命令が下った
普段使用されている車輌のほとんどは出払っており,非番の隊員も駆り出されて対応に追われていた
特別それが不思議な事ではない
気掛かりなのは怪異事件の発生場所だ
通常怪異が発生する場所,もとい怪異が発生しやすい場所には特徴がある
霊的に歪んだ場所や負の感情が残留する墓地や寂れた市街地
事故の発生現場など,言い換えれば怪異が好むとも呼べる場所
しかし報告に上がっている場所には繁華街や人通りの多い幹線道路も含まれていた
本来であれば怪異が発生する場所とは呼べない
当然必ずしもそうであるとは言えないのだがこの連続した怪異事件の発生,不自然な場所での怪異出現
そしてそれらが同時に発生しているというこの状況
まるで何者かに無理矢理引き起こされている様な予感を麗を感じていた
「…ところで霧雨先輩,私ら即応部隊見習いみたいなものですけど…いつもこうなんですか?」
「いつもって?」
「こうやって部隊で動く事って…聞いてた話だと霧雨先輩や朝比奈先輩みたいに単独でも強い隊員が個々に動くって聞いてたんですけど…」
「…いつもならね,基本的には本隊到着までの遅滞戦闘が主な任務,けれど今の様な状況だと本隊到着がいつになるか分からない…その時は殲滅になるんだけど…」
「だけど?」
「私も部隊を率いるのは初めてなの,即応部隊というよりも通常の部隊と同様に今回の任務を任されているんじゃないかしら」
「…ってーなると……本隊の人達がやってるあれやこれやも私達のお仕事って事になります?」
「そうよ花崎,とは言っても怪異討伐後に現場を通常の警察へ移管を行うだけだけどね」
「うぇー…私大人の人きらーい」
「全く…」
「…けど花崎さんの言ってる事分かりますよ…私も…あの人達の目が嫌いですから…」
「…………」
目が嫌い…というのは彼女達の事を見る目についてだ
八咫烏とは通常の警察組織が対処出来ない怪異事件を専門としている
それだけではなく隊員の大多数が10代という若さに加えて大厄災の影響で怪異と一体化してしまい半妖となった者達もいる
そんな彼女達を大人達はまるでバケモノを見る様な目で見つめるのだ
怪異
人ならざるモノ
そんな怪異と戦う彼女達もまた同じ存在…バケモノだと思っている人が多い
「…私達は八咫烏よ,人にどう思われていても,私達は人々を守る為に戦っているの,それだけは確かよ」
「当然,私も保護されるまでは…」
「民間も楽しかったんだけどねー…」
「私は奈良からですし…」
怪異と戦う存在は八咫烏だけではない
民間の対魔師や半妖となった者達,同じ怪異だって時には争っていたりする
争うだけでは何も解決はしない
その為八咫烏の真の目的は人間と怪異の共存を目指している
しかし未だその希望は小さく,希望と呼ぶにはあまりにも儚い物だ
「……もうすぐ現場ね…松葉」
「はい,安全運転で特急便ですね」
「んー…そろそろ私も武器変えようかなぁ…新しいの出たし」
「いざって時は自分の愛用してる武器が助けてくれるっていうのに…麗先輩を見習いなさいよ花崎」
「そういえば先輩ってずっと刀でしたね,一応銃を持ってるみたいですけど使ってるところ見た事ないです」
「足を狙ったと思ったら頭に当たるからね」
「あー……納得です…」
「…けど霧雨先輩って刀だけでも相当な実力者ですもんね…今度また稽古つけてくださいよ」
「あ!私もお願いしたい!そろそろ近接したいなって!」
「はぁ……貴女達気を引き締めなさい,もう現場に着くのよ」
「報告によればカテゴリーC…禍人の反応が複数です」
「それじゃあ…いっちょやりますか」
「まだ他の人達も対応してますし…私達も素早く済ませて合流しましょう」
「…行くわよ」
希望は小さい
けれど希望がない訳ではない
だから明日でなくてもいい
いつかの未来でも構わない
人間と怪異が共存出来る世界をいつか必ず実現させる
希望を胸に彼女達は車輌から降りて各々武器を構えた
しかしこの時彼女達は思ってもいなかった
人間と怪異の共存
そしてそれを阻む存在が怪異ではなく…
同じ人間である事を
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