パート4: 辺境の日常と規格外の力
目の前で跪き、キラキラした瞳で俺を見上げてくるリリアーナ。
いや、だから英雄じゃないんだって。仕えるとか言われても困る。
「…あー、とりあえず立てよ。そんなことされても困る」
俺がそう言うと、リリアーナははっとしたように立ち上がり、頬を赤らめた。
「も、申し訳ありません、アルト様! つい、感激のあまり…」
(だから、様付けもやめてほしいんだけど…)
まあ、言っても聞かなそうだし、今は放置するか。
俺がリリアーナの同行を(渋々ながら)許可すると、護送の兵士たちはあからさまにホッとした顔をした。
「で、ではアルト様! 我々はこれにて!」
「ご、ご武運を!」
任務完了とばかりに、そそくさと馬車に乗り込み、逃げるように去っていった。
おい、俺たちを村まで案内するんじゃないのかよ。まあいいけど。
残された俺とリリアーナは、改めて辺境の村へと足を踏み入れた。
さっき遠目で見た以上に、寂れた場所だ。
家は古く、道は舗装されていない。行き交う人々もどこか疲れた表情をしている。
これが俺の新しい生活の舞台か。
(まあ、自由気ままにはできそうだ)
気を取り直して、まずは拠点探しだ。
村をうろついていると、幸いにも(?)打ち捨てられたようなボロ家が見つかった。
持ち主もいないらしい。勝手に使っても文句は言われなさそうだ。
「今日からここが俺たちの家だ」
「はい、アルト様! わたくしが綺麗にいたします!」
リリアーナはそう言うと、どこから取り出したのか、ボロ布で早速掃除を始めた。
元王女様なんだよな? 随分とたくましいな。
甲斐甲斐しく働く彼女の姿を見ていると、なんだか申し訳ない気分になってくる。
(…まあ、本人がやりたいなら、いいか)
俺は早々に家のことはリリアーナに任せ(押し付け)、当面の課題である食料調達に向かうことにした。
***
村の近くの森に入る。
辺境だけあって、魔物の気配が濃い。
ゴブリンや、ちょっと大きめの狼なんかがうろついている。
まあ、今の俺にとっては、ただの動く食料だ。
(さて、今日の晩飯は何にすっかな…)
そんなことを考えながら歩いていると、前方の茂みがガサガサと揺れた。
現れたのは、巨大な猪。
普通の猪じゃない。牙は鋭く、目つきも凶暴。魔物化した猪、魔猪(デビルボア)ってやつだろう。
Aランク…いや、Bランクくらいか? 普通の冒険者ならパーティを組んで挑むレベルだ。
(お、これはラッキー。デカいし、美味そうだ)
俺はニヤリと笑った。
面倒な戦闘はしたくない。
例の「力」で、一瞬で終わらせる。
俺は魔猪に向けて、そっと右手をかざした。
意識を集中し、力を込める。
イメージは、「押し潰す」。
ドゴォッ!
鈍い音が響き、魔猪がいた場所の地面が大きく陥没した。
魔猪は? …うん、綺麗にミンチになってるな。やりすぎたか?
まあ、食えないことはないだろう。
(さて、どうやって村まで運ぶか…)
さすがにこの巨体だ。引きずっていくのは骨が折れる。
(…そうだ、あれを使ってみるか)
俺は再び「力」に意識を向ける。
今度は、物を「浮かせて」「運ぶ」イメージ。
すると、ミンチ…じゃなかった、魔猪の亡骸(大部分)が、ふわりと宙に浮いた。
(お、できた。便利だな、これ)
俺は空飛ぶ魔猪を引き連れて、意気揚々と村への帰路についた。
***
村に戻ると、俺の姿(と、宙に浮いた巨大な魔猪)を見て、村人たちがぎょっと目を剥いた。
あっという間に人だかりができる。
「お、おい、あれ…デビルボアじゃねえか!?」
「ば、馬鹿な! 一人で狩ったっていうのか!?」
「しかも、あの猪、浮いてるぞ…!?」
「いったい何者なんだ、あの兄ちゃんは…!」
村人たちの驚愕と畏敬の視線が突き刺さる。
俺は特に気にせず、拠点であるボロ家へと向かった。
家に着くと、リリアーナが目を輝かせて出迎えてくれた。
「アルト様! おかえりなさいませ! まあ、なんと立派な獲物…! さすがでございます!」
(いや、だから普通だって…多分)
俺は魔猪(の残骸)を家の前に下ろし、解体作業に取り掛かった。
これも、前世の知識が少し役立つ。サバイバル系の動画とか好きだったんだよな。
内臓を取り出し、肉を部位ごとに切り分けていく。
これも「力」を使えば楽々なのだが、あまり人前で見せるのもアレなので、普通にナイフを使う。
そして、夜。
家の前の焚き火で、魔猪の肉を焼く。
塩胡椒だけのシンプルな味付けだが、素材が良いのか、めちゃくちゃ美味そうな匂いが漂ってきた。
火加減も、「力」で微妙に調整しているから完璧だ。
「さあ、できたぞ」
焼き立ての肉を木の皿に乗せ、リリアーナに渡す。
「い、いただきます…!」
リリアーナは、恐る恐る肉を口に運び、そして目を丸くした。
「っ…! お、美味しい…! こんなに美味しいお肉、初めていただきました…!」
涙ぐみながら、感動している。
大げさだなあ、とは思うが、喜んでもらえるのは悪い気はしない。
「そうか、よかった」
俺も自分の分の肉にかぶりつく。
うん、我ながら上出来だ。ジューシーで、噛むほどに旨味が溢れてくる。
辺境暮らしも、悪くないかもしれない。
俺たちは無言で肉を堪能した。
周囲からは、村人たちの羨ましそうな視線と、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてくる。
見かねて少しおすそ分けしてやると、彼らもまた、リリアーナと同じように感動していた。
(まあ、たまにはこういうのもいいか)
そんなことを考えていると、村人の一人が声をかけてきた。
「あ、あのう…兄ちゃん。実は、村でちょっとした騒ぎがあって…」
「騒ぎ?」
「へ、へえ。数日前から、人買いが来てましてね。どうも、珍しい獣人の子供を捕まえたとかで…」
獣人? 奴隷?
またしても、面倒事の匂いが、プンプンと漂ってきた。
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