パート2: 辺境への道と力の片鱗

王都を出て数日。

辺境への道のりは、予想以上に退屈で、そして過酷だった。

舗装なんてされていないガタガタの道を進む馬車に揺られ、俺の尻は限界を訴え始めている。


「あー…まだ着かないのかよ」


俺は護送役の兵士に、何度目か分からない質問を投げかけた。

兵士はもう慣れたもので、愛想笑いを浮かべながら答える。


「は、はぁ…申し訳ありません、アルト様。辺境まではまだ数日はかかりますかと…」


(だろうな! 聞くまでもなかった!)


分かってはいても、言わずにはいられない。

早くこの苦行から解放されたい一心だった。

まあ、王宮にいた頃の息苦しさに比べれば、これでもマシなのかもしれないが。


そんなことを考えていると、不意に馬車が急停止した。


「どうした?」


御者台にいる兵士に声をかける。


「ま、前方に…魔物が!」


兵士の声が上ずる。

俺も窓から外を覗き込むと、道の先に緑色の小さな影がうごめいているのが見えた。

十…いや、二十匹はいるか?


ゴブリンだ。

この世界ではありふれた、しかし集団になると厄介な魔物。


「ゴ、ゴブリンの群れです! アルト様、お下がりください!」


護送兵たちが慌てて剣を抜く。

だが、その顔は恐怖に引きつっていた。

まあ、こいつら、ろくに実戦経験もなさそうな連中だしな。


(あー、だるい。ここで足止めかよ…)


俺はため息をついた。

早く先に進みたいのに、面倒なことになった。


(さっさと片付けるか)


そう思い、俺は無意識に指を鳴らした。

パチン、と乾いた音が響く。


次の瞬間。


ドゴォォォン!!!


馬車の前方で、小規模な爆発が起こった。

いや、爆発というよりは、目に見えない何かがゴブリンの群れを薙ぎ払った、という方が正確か。

土煙が舞い上がり、それが晴れると、さっきまでいたゴブリンたちは影も形もなくなっていた。

地面には、不自然なほど綺麗なクレーターがいくつかできているだけだ。


「「「………は?」」」


護送兵たちが、呆然と口を開けて固まっている。

俺も内心、少し驚いていた。


(あれ? ちょっと威力強すぎたか? まあ、いいか。片付いたし)


俺は特に気にする様子も見せず、兵士たちに声をかけた。


「…終わったみたいだぞ。早く行こうぜ」


「は、はひぃっ!?」


兵士たちはビクッと体を震わせ、慌てて馬車を発進させた。

その後ろ姿を眺めながら、俺はまた一つため息をついた。

どうやらこの力、思った以上にコントロールが難しいらしい。


***


その夜。

森の中で野営することになった。

焚き火を囲み、まずい携帯食料を口に運ぶ。

護送兵たちは、昼間の一件以来、明らかに俺を遠巻きにしていた。

まあ、気楽でいいんだけど。


「あ、あの…アルト様」


一人の兵士が、意を決したように俺に話しかけてきた。

一番年嵩の、リーダー格の兵士だ。


「…なんだ?」


「ひ、昼間の…その、魔法…なのでしょうか? あれは一体…?」


声が震えている。

他の兵士たちも、聞き耳を立てているのが分かった。


(うわ、聞かれた。面倒くせぇ…)


俺はどう答えたものか、一瞬考えた。

本当のことを言っても信じないだろうし、そもそも俺自身、よく分かっていないのだ。


「さあ? なんか出ただけだろ。気にするな」


俺はぶっきらぼうに、そう答えた。

ポーカーフェイスは得意だ。悪役王子時代に培ったスキル(?)である。


「そ、そんな…! あれほどの威力が、勝手に出るなど…!」


兵士は信じられない、という顔をしている。


(いや、俺もよく分からんのだって)


内心でツッコミを入れる。

だが、それを口に出すほどお人好しではない。

面倒事はごめんだ。


俺は黙って携帯食料を咀嚼し続ける。

兵士は何か言いたそうにしていたが、俺の無関心な態度に諦めたのか、すごすごと自分の持ち場に戻っていった。


遠巻きに見守る兵士たちの間で、ひそひそと囁き声が交わされているのが聞こえた。


「…やはり、ただの追放ではなかったのでは…?」

「あの力…平凡スキルなどでは絶対にない…」

「王太子様は、一体何を考えて…? まさか、自ら望んで辺境へ…?」


(ん? なんか変な方向に勘違いされてないか?)


まあいいか。

どう思われようと、俺には関係ない。

それより、早く寝て明日に備えよう。


俺は焚き火に背を向け、ごわごわした毛布にくるまった。


***


さらに数日が過ぎた。

景色はますます荒涼としていく。

緑は少なくなり、乾いた大地が広がっていた。

時折見える小さな村も、活気がなく、寂れた印象だ。


「…そろそろ、目的地の『名もなき辺境』の中心村に着く頃合いです」


御者の兵士が言った。

ようやくか、と安堵する。


そして、視界が開けた先に、それらしき村が見えてきた。

…想像以上に、酷かった。

粗末な木造の家がまばらに立ち並び、土埃が舞う道を、痩せた人々が行き交っている。

活気なんてものは、どこにもない。


「うわ、思ったより酷いな…」


思わず声に出してしまった。

まあ、覚悟はしていたが。


(でも、まあ、自由には代えられない。ここからだ、俺の新しい人生は)


気を取り直して、そう思った時だった。


「きゃあああああああっ!」


遠くから、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。

森の方角からだ。


「…ん?」


俺は眉をひそめた。

護送兵たちも顔を見合わせている。


(また面倒事かよ…)


俺は大きく、深いため息をついた。

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