藤娘

獅子2の16乗

第1話 

 もうすぐひなまつり。


 パパがおひなさまをかざってる。

 かいだんみたいなのと、はこにはいってるおにんぎょう。

 おひなさまはみんなかわいいからすき。


「パパ、このおにんぎょうなあに」


『ああ、これは藤娘ふじむすめっていうんだ』


「……かわいい」


『そうか、それは良かった。この人形をくれたのは菜都美なつみのお祖母ちゃんなんだ。菜都美が気に入ったって言ったらきっと喜ぶよ』


「おばあちゃんとおはなししたい」


『おう、電話しようか』


『あぷー』


 あ、あきがおきたみたい。


「あきのこえもきかせてあげようよ」

『うん、そうだね』


 …………


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今年ももうすぐひなまつり。

 パパ、たんしんふにんからかえってきてひな人形をかざってる。


亜希あきはどのお人形が好き?」


『いちばんうえのおんなのこ』


「ああ、おひなさまね」


『ねーねはどのおにんぎょうがすき?』


「ねーねはこの人形」


『むらさきいろのおにんぎょう?』


「うん、ふじむすめっていうの。パパが教えてくれたよ」


『パパなんでもしってるんだ』



『パパー』


『なんだ、亜希』


『あき、おおきくなったらパパとけっこんするの』


『うんありがとう』


『亜希、亜希とパパとは結婚できないよ」


『ママ、なにいってんの。亜希はパパとラブラブなのよ。ラブラブはけっこんするのよ』

「じゃあ、ねーねはゆうくんと結婚するね」

『あきはゆうくんともけっこんするのよ』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 私も亜希も小学生になった。


晴海はるみ、菜都美も亜希も俺と結婚するって言わなくなったよ』

慶次郎けいじろうさん、子供の言ったことを真に受けないの。相応の相手が存在するってことに気が付いただけよ』


 パパ、ちょっとかわいそうかも。


「ねえ、パパ」

『なんだ、菜都美』

「藤娘の人形ってモデルいるの?」

『え、ああ……ちょっと待ってて』


 やっぱりパパはかっこいい。


『モデルってのはいないんだよ。この子が躍ってる踊りの名前が藤娘っていうんだ』

「昔の踊り?」

『うん、江戸時代かな、歌舞伎かぶきっていう劇の中の踊り、だっていうことだ』

「ふーん。どんな劇なの?」

『ごめん、お父さん見たことがないからよくわからないんだ。ラブストーリーらしいけど』


「もっと大きくなったら見に行きたいな」

『おう、連れてってやろうか?』

「えー」

『菜都美、彼氏に連れてってもらったらいいじゃない』

『なに、彼氏だと、許さん!』

『慶次郎さん、何言ってんの!』

『だって、菜都美が……』

『おかしなことを言ってないで、これ食べて雛人形を飾って』


『これ、干し柿か?』

千桜莉ちおりちゃんが持ってきてくれたあんぽ柿よ』

『千桜莉ちゃん……ああ、雄郷ゆうごう君の婚約者か』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 大学に入って、同じサークルの阿国おぐに 雄人ゆうとさんと付き合い始めた。とってもいい人。


 今日は、雄人さんがお父さん、お母さんに挨拶する日。


 雄人さん緊張してる。

 私も緊張……そういえば付き合ってる人を家に呼んだのは初めてだ。


『初めまして、菜都美さんと交際させていただいてます、阿国 雄人と申します』


『いらっしゃい。菜都美の父の慶次郎です』

『母の晴海です』


 雄人さんとお父さんの間に緊張が漂ってる……雄人さんの目も見たこともないほど力が籠ってるし。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 交際相手のご両親への挨拶。

 一大イベントです。




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