パート9:胃痛の同志、最初の会話(?)

「アリア様、こちらです…」


レオンさんは、少しやつれた顔で私を促し、詰所の廊下を歩き始めた。

広間ほどではないけれど、廊下もあちこちで騎士さんたちが行き交っていて、やっぱり騒がしい。

すれ違う騎士さんたちは、みんな興味津々といった感じで私に視線を向けてくる。その度に、私はビクッと体を縮こまらせてしまう。


それに気づいたのか、レオンさんは、さりげなく私の少し前を歩くような位置取りをしてくれた。

彼の背中が、少しだけ周りの視線を遮ってくれる。


(あ……)


気のせいかもしれないけど、ちょっとだけ、守ってくれようとしてる……?

そう思うと、さっきまでのガチガチだった緊張が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。


しばらく無言で歩いていたけれど、レオンさんが意を決したように、小声で話しかけてきた。


「あ、あの……アリア様。大丈夫ですか? その……先ほどは、驚かれたでしょう……」


遠慮がちな、心配そうな声。

さっきのゼノンさんの圧とは全然違う、普通の人の声だ。

それがなんだかすごく新鮮で、私は少し戸惑いながらも頷いた。


「は、はい……だ、大丈夫…です……たぶん……」


全然大丈夫じゃないけど、そう答えるしかなかった。

レオンさんは、私の返事を聞いて、困ったように眉を下げた。


「……そうですか。いえ、その……団長のことは……本当に、申し訳ありません」


彼は、さらに声を潜めて続ける。


「団長は、その、決して悪気はないのですが……少し、いや、かなり、ああいうお方なので……。驚かせてしまって、すみませんでした」


まるで、自分のことのように謝ってくれるレオンさん。

彼だって、団長のせいで胃が痛そうなのに。


「い、いえ! レオンさんが謝ることじゃ……」


思わずそう言いかけると、レオンさんは力なく笑った。


「はは……まあ、これからアリア様のお世話をさせていただく身としては、団長のあの調子を何とかするのも役目……なのかもしれませんが……正直、自信がありません……」


その言葉には、深い諦めと疲労感が滲み出ていて、私はますます彼に同情してしまった。


(この人も、本当に大変なんだ……)


なんだか、初めてこの世界で、同じ苦労を分かち合える人に出会えたような気がした。

もちろん、お互い言葉には出さないけれど。


そんな、ちょっと気まずいような、でも不思議な連帯感が生まれたような沈黙の中、私たちは一つの扉の前にたどり着いた。

さっきまでの騒がしい廊下とは違って、少し静かな区画にあるみたいだ。


「こちらへどうぞ」


レオンさんが扉を開けてくれる。

中は、小さな応接室のような部屋だった。

簡素だけど、ソファとテーブルが置かれていて、掃除もされているみたいだ。

少なくとも、さっきの訓練広間よりは、ずっと落ち着ける。


「お部屋の準備ができるまで、ここで少しお待ちください。飲み物でもお持ちしましょうか?」


レオンさんが尋ねてくれる。


「あ……いえ、お構いなく……」


「そうですか。では……」


レオンさんはそう言うと、部屋の隅に控えるように立った。

シーン、と静寂が訪れる。

二人きりの空間。

さっきまでの喧騒が嘘のようだ。


でも、静かになったらなったで、なんだかすごく気まずい……。

私はソファに浅く腰掛けたまま、どうしていいか分からず、ただ自分の指先を見つめていた。


→【第3章 パート10へ続く】

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