パート5:行き先は脳筋の巣窟!?

やがて、高い城壁に囲まれた王都の門が見えてきた。

門を守っている衛兵さんたちが、私たちの部隊に気づいて敬礼している。

周囲を行き交う市民の人たちも、物々しい騎士団の帰還に足を止め、遠巻きにこちらを見ていた。

特に、大きな体のゼノンさんと、その隣で縮こまっている私の組み合わせは、かなり目立っているみたいで、ひそひそと囁き合う声が聞こえてくる。


(やっと……やっと王都に……)


少しだけ、本当に少しだけ、安堵感が湧いてきた。

神殿に帰れば、アグナス様は怖いけど、少なくともこの筋肉団長さんよりは話が通じるかもしれない。いや、通じてほしい。切実に。


「うむ! 到着したな!」


ゼノンさんが満足そうに頷き、門をくぐる。

そして、当然のように、神殿とは違う方向へ足を向けた。


「さあ、聖女様! 我らが騎士団詰所はすぐそこですぞ! 歓迎の準備は……まあ、しておらんが、すぐに最高の環境を整えましょうぞ!」


(……え?)


今、なんて言った? きしだんつめしょ?


(嘘でしょ!? 神殿に帰るんじゃないの!?)


私の顔から血の気が引いていくのが分かった。

騎士団詰所って、つまり、この筋肉脳筋集団の本拠地ってこと!?

そんなむさ苦しい(イメージ)場所に、私が!?


「だ、団長! お待ちください!」


その時、私の心の叫びを代弁するかのように、あの若い騎士さんが再び声を上げた。ナイス! 心の中で三度目のエールを送る。


「聖女様は、まず大神殿へお送りするのが筋かと存じます! 大神官様も聖女様のご帰還をお待ちのはずです! それに、騎士団詰所では女性が過ごすには何かと……」


そうだそうだ! もっと言って! と私は内心で彼を応援する。


しかし、ゼノンさんは、そんな常識的な進言を鼻で笑い飛ばした。


「レオンよ、貴様はまだ分からんのか!」


(あ、この騎士さん、レオンさんって言うんだ……)


どうでもいい情報が頭に入る。


「大神殿だと? あのような形式ばかりで軟弱な者たちが集う場所に、このエウレリア王国の至宝、最終兵器たる聖女様(物理)をお預けできるか!」


(最終兵器!? しかも物理ってやっぱりついてるし!)


ゼノンさんは、熱く語る。


「聖女様の御身の安全! そして、その類まれなる御力(パワー)をさらに磨き上げるための鍛錬! それらを完璧に遂行できるのは、このエウレリア広しといえど、我らが王国騎士団をおいて他にないのだ! 異論は認めん!」


(た、鍛錬!? やっぱり言った! 私が何を鍛えるって言うの!?)


もう、全身から力が抜けていく感じだ。

レオンさんも、ゼノンさんの脳筋理論と「異論は認めん!」という言葉に、完全に撃沈した様子で、がっくりと肩を落とし、そっと胃のあたりを押さえている。……本当に、お疲れ様です。


周りの騎士さんたちも、「まあ、団長がそう言うなら……」みたいな感じで、特に反対する様子はない。一部は「聖女様の鍛錬か…」とか呟いて、ちょっとワクワクしているように見える。やめて怖い。


「さあ、聖女様! 参りましょうぞ! 我が騎士団へようこそ!」


ゼノンさんは、有無を言わせぬ笑顔で私を促す。

もう、私に選択肢はない。

抵抗は、無駄なのだ。


私は、まるで処刑場に引かれていく罪人のような、絶望的な気持ちで、とぼとぼと歩き出した。

行き先は、神殿ではなく、筋肉と汗と、たぶん大量のプロテイン(偏見)が渦巻くであろう、王国騎士団詰所。


私の異世界ライフ、詰所の筋肉部屋(これも偏見)で始まるんですか……?

考えただけで、涙が出そうだった。


→【第3章 パート6へ続く】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る