スキー研修#9 「20240117」
赤く光っている火が部屋の暖炉に、
白く落ちてゆく雪が部屋の窓にある。
和と賢の二人は本部の宿のある部屋で寝ていた。
大部屋のように雑魚寝ではなく、ふかふかのベットと毛布だった。
ベットの横には温かいオレンジ色の光を放つライトが置かれていた。
和は体を起こした。
横には賢が寝ていた。
賢が目を閉じている顔を見るのは合宿以来だった。
昨日もこれを見れている永仁を羨ましがりつつ、
自分のせいで賢がこうなっていると言う事実が和の頭を溶かした。
ふと和がポケットに手を入れると、そこには賢からもらったボールペンが入っていた。
まだ夢の中なのだと和は思い込んだ。
和は賢のベットの横にある椅子に座ってペン先を出してみる。
無理に関わらなくていいなんて言った自分は馬鹿で強がってるだけだったのだと思い返した。
暖炉の火花を散らす音が部屋に響いている。
賢が起き上がった。
和はペンを後ろに隠す。
「かず…」
目が開いてなく、名前だけ甘い声でぼんやりと口にした。
「……ごめん。面倒ごとに巻き込んで」
賢が毛布の中で体を動かして和の方に寄った。
「面倒じゃないよ」
「元々関わらなかったら、賢も気使わなくて良かったのに」
賢は仰向けになったまま和に質問した。
「和は、俺のこと嫌い?
俺は、和とは親友だから、喋ってない間ちょっと寂しかったね」
賢は目を閉じながら消え入りそうな声でそう言った。
風が吹いたのか、窓枠がカコカコと音を鳴らした。
暖炉の中の火はより一層大きく燃えていた。
「━━━━賢とは友達にはなれない」
和は後ろに隠したペンを強く握りながらそう口にした。
「そっか」
賢は仰向けのまま動かず、優しく答えた。
賢は息を深く吸った。
パチパチパチと部屋に音が響く。
ライトはこの部屋を温かい色に染めていた。
和の影が少し俯く。
「好きだよ」
和はゆっくりと口を閉じた。
和の鼓動が早まった。
賢は何も言わない。
寝息が聞こえた。
火花の音と混ざり合って賢の寝息が聞こえた。
和は体から力が抜けた。
寝てたんだ。
せっかく言ったのに。
和は隠していた賢からのプレゼントのペンを出した。
寝ている賢の腕を引いて、手のひらを開いた。
カチッとペン先を出す。
「じゃあね」
和は寝ている賢に手を振りながら、一人部屋を出て行った。
和は部屋の扉を閉める。
先生のところに行って、自分の荷物をまとめた。
「ちょっとしたハプニングはあったが、最後、楽しめたか」
先生が和にそう声をかけた。
「楽しかったです。ありがとうございました」
和は先生にお辞儀をして、スキーの荷物を持って廊下に出た。
宿の出口まで少し長い廊下を歩く。
きっと宿の玄関で施設の先生が待っている。
急がなきゃと思い、少し足が速くなったが、なぜだか足が重い。
昔なんて高校にいけるかも分からなかった。
少しの間だったけれど、楽しいことがいっぱいあった。
ずっと暗かった人生に一つの光を見せてくれた。
賢の顔が思い浮かぶ。
「これから頑張ろうね」
最初の時のことを思い出していた。
僕にとってあなたは友達じゃなくて好きな人なんだ
あぁ、目の前がぼやけて何も見えない。
和は宿から出た。
和は目を擦って駐車場にいる施設の車に足を進める。
外は雪がしんしんと降り積もっていて、
泣いた後に見る風景はいつもよりも綺麗だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます