元の道#9 「歩道橋」

和は最近は早めに寝ている。


自分でも疲れていると自覚していたからだった。


いつも寝る前にはある人の顔が頭に浮かぶ。


それは賢だった。


部屋の扉が開いた。


「もう寝るの」


カウンセラーだった。


「はい。なんですか」


沈黙が少し広がった。


「合宿楽しかったの」


「...はい」


和はカウンセラーがお金を出してくれたことをまだ不審に思っていた。


「なんでお金━━━━」


和がそう聞こうとした途端、また扉が開いた。


「和くん、ちょっと」


そうして和は一度しか入ったことのない職員室に入った。


職員室は学校の職員室よりも狭くて薄暗かった。


施設に来たばかりの子に対応するソファーに座らされた。


和が最初に施設に来た時もここに座らされた。


警察との事情聴取もここでした。


その時ほど重要なことなのだろうか。


和は緊張した。


そんな和を見ながらカウンセラーもついてきている。


先生も向かいに座った。


「和くん。驚かないで欲しいんだけど」


先生はどこか深刻そうな顔をしていた。


「━━━お母さん。亡くなられたって」


和は一瞬目を見開いた。


けれど

「そうなんですね」


とだけ答えた。


先生はそんな僕を見て


「無理にお葬式には出なくていいことになってるから」


と言った。


その言葉にいつもの意地悪さはなかった。


「あとこれ」


先生はある紙を机に出した。


「あなたのお父さんからよ」


その紙はあるアパートとの契約書だった。


「和くんとはあと半年でお別れになるわ」


僕は頭が真っ白になった。


この児童養護施設から出て行くことじゃない。


お父さんが、まだお父さんだったことでもない。



紙に書かれているアパートの住所が東京だからだった。


和の後ろから大きな体が勢いよく飛び出てきた。


「ちょ、っとどういうことですか」


カウンセラーが紙を取り上げた。


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